新堂さんと恋の糸
私が書いていた三回目の特集記事――その原稿データが、社外に出ていた。
最終校正に回す前のレイアウト案。それとほとんど同じものが、別の出版社に匿名メールで送られたあと、SNSにも一部が流出したのだという。
信じられない報せを聞いて私はすぐにでも駆けつけようとしたけれど、『今は上が対処してくれているから』と言われ、翌日の日曜の朝一番で編集部に向かうことになった。
日曜の編集部は、がらんとしていた。
いるのは園田編集長と杳子さん、それから私の三人だけ。会議スペースに集まると、編集長が深く息をついて口を開いた。
「まず、経緯から説明するね。昨日の夜、他社の編集長から私宛てに連絡があったの」
匿名のフリーアドレスからメールが届き、添付されていたのが『D.design』の誌面データだったらしい。
「向こうの編集長、私の前の職場の同期でね。新堂さんの特集やってるのも読んでくれてたから『これ、本物?』って確認の連絡をくれたのよ」
他の出版社にデータが流れた――それは藤城さんがやったことを彷彿とさせるようで、そこまで聞いただけでも、胃のあたりがきゅっと痛くなった。
「それから、それとほぼ同じデータがSNSにも一部上がった形跡がある。法務が連絡を入れて今は削除済み」
「SNSにまで……?」
編集長が話す内容を聞くほどに、大変なことになったんだと動揺する。
「捨てアカウントからみたいだけどね。ただ、転載がどこまでされてるかはまだ確認中よ。お詫びと注意喚起の一報は出しているから、対外的には今のところやれることはやった。問題は……」
「どうして流出したか、ですよね」
私の言葉にそうなのよね、と編集長は額に手を当てる。
「ごめんなさいね、これは一応聞いとかないといけないから聞くけど…櫻井さんではないわよね?」
「はい」
私は顔を上げて、はっきり首を振った。
最終校正に回す前のレイアウト案。それとほとんど同じものが、別の出版社に匿名メールで送られたあと、SNSにも一部が流出したのだという。
信じられない報せを聞いて私はすぐにでも駆けつけようとしたけれど、『今は上が対処してくれているから』と言われ、翌日の日曜の朝一番で編集部に向かうことになった。
日曜の編集部は、がらんとしていた。
いるのは園田編集長と杳子さん、それから私の三人だけ。会議スペースに集まると、編集長が深く息をついて口を開いた。
「まず、経緯から説明するね。昨日の夜、他社の編集長から私宛てに連絡があったの」
匿名のフリーアドレスからメールが届き、添付されていたのが『D.design』の誌面データだったらしい。
「向こうの編集長、私の前の職場の同期でね。新堂さんの特集やってるのも読んでくれてたから『これ、本物?』って確認の連絡をくれたのよ」
他の出版社にデータが流れた――それは藤城さんがやったことを彷彿とさせるようで、そこまで聞いただけでも、胃のあたりがきゅっと痛くなった。
「それから、それとほぼ同じデータがSNSにも一部上がった形跡がある。法務が連絡を入れて今は削除済み」
「SNSにまで……?」
編集長が話す内容を聞くほどに、大変なことになったんだと動揺する。
「捨てアカウントからみたいだけどね。ただ、転載がどこまでされてるかはまだ確認中よ。お詫びと注意喚起の一報は出しているから、対外的には今のところやれることはやった。問題は……」
「どうして流出したか、ですよね」
私の言葉にそうなのよね、と編集長は額に手を当てる。
「ごめんなさいね、これは一応聞いとかないといけないから聞くけど…櫻井さんではないわよね?」
「はい」
私は顔を上げて、はっきり首を振った。