新堂さんと恋の糸
「分かってるわ。ただ、形式上ね」
編集長は小さく息を吐き、机の上の紙の束を指さした。
「流出してた誌面がこれよ」
杳子さんから四ページ分をプリントアウトしたものが手渡される。削除される前にとっておいたものらしい。
「下書き原稿を、共有フォルダに間違ってアップした可能性は?」
「それは気をつけているので……ないはずです」
社内の原稿データは、社内専用のオンラインストレージで管理されている。社員や契約社員ごとに個人フォルダが割り当てられていて、パスワードはそれぞれ別。
社外への持ち出しは原則禁止で、貸与されているノートパソコンもUSBメモリなどの外部媒体は使えないように設定されている。本来なら、社外に出るはずのないデータだ。
「これは、櫻井さんが作っていたもので間違いはなさそう?」
「レイアウト構成や文章は同じです。でも……一つだけ違うところがあります」
震えそうになる声を、どうにか抑えながら言う。
「誌面の写真です。本来は、顔が入らないようにトリミングする予定でした。でも、この流出データは……加工前の写真が使われています」
そのページには、作業机に向かっている新堂さんの横顔がはっきり写っていた。
(誌面に新堂さんや玲央くんの顔写真を載せないこと。それは最初からの約束だった)
私がいくらうっかりしていようがぼんやりしていようが、この状態のまま校正依頼用の共有フォルダに入れるなんてことは、絶対にやるはずがない。だって、私が一番気をつけていたことだから。
「つまり――誰かが、わざわざ元データに差し替えてから流出させたってことね」
流出しただけではない――誰かが、わざわざ『加工前の写真に差し替えてから』流出させている。
そこには明確な悪意を感じて、私は背中がぞくりとした。
編集長は小さく息を吐き、机の上の紙の束を指さした。
「流出してた誌面がこれよ」
杳子さんから四ページ分をプリントアウトしたものが手渡される。削除される前にとっておいたものらしい。
「下書き原稿を、共有フォルダに間違ってアップした可能性は?」
「それは気をつけているので……ないはずです」
社内の原稿データは、社内専用のオンラインストレージで管理されている。社員や契約社員ごとに個人フォルダが割り当てられていて、パスワードはそれぞれ別。
社外への持ち出しは原則禁止で、貸与されているノートパソコンもUSBメモリなどの外部媒体は使えないように設定されている。本来なら、社外に出るはずのないデータだ。
「これは、櫻井さんが作っていたもので間違いはなさそう?」
「レイアウト構成や文章は同じです。でも……一つだけ違うところがあります」
震えそうになる声を、どうにか抑えながら言う。
「誌面の写真です。本来は、顔が入らないようにトリミングする予定でした。でも、この流出データは……加工前の写真が使われています」
そのページには、作業机に向かっている新堂さんの横顔がはっきり写っていた。
(誌面に新堂さんや玲央くんの顔写真を載せないこと。それは最初からの約束だった)
私がいくらうっかりしていようがぼんやりしていようが、この状態のまま校正依頼用の共有フォルダに入れるなんてことは、絶対にやるはずがない。だって、私が一番気をつけていたことだから。
「つまり――誰かが、わざわざ元データに差し替えてから流出させたってことね」
流出しただけではない――誰かが、わざわざ『加工前の写真に差し替えてから』流出させている。
そこには明確な悪意を感じて、私は背中がぞくりとした。