新堂さんと恋の糸
 「USBにデータを落としたりは……ないか」
 「はい。会社から貸与されているパソコンでは、外出しの記録媒体は使えませんし……」
 「となると、誰かが櫻井さんの個人フォルダにアクセスして、コピーしたと考えるのが自然ね。パスワードをどうやって知ったのかは別として」

 これは頭が痛いわ、と編集長が大きく溜息をつく。

 「パスワードを盗み見された可能性が高いんじゃないですか?泉ちゃん、会社以外だとどこでパソコン使った?」

 杳子さんからの質問に、最近の行動を思い返す。

 「持ち帰って家で仕事をすることはありました。でも一人暮らしなので私以外にはいないですし……カフェやファミレスなどで使っていません」
 「新堂さんの事務所では?」
 「え……?」
 「新堂さんの事務所で、原稿の下書きをしたりしたことあるんじゃない?」

 確かに、新堂さんが打ち合わせで立て込んだりしているとき、原稿の手直しをしたことはある。

 「確かアシスタントの子がいるわよね?その子がいる前で、席を立ったりしなかった?」
 「……お手洗いと、飲み物を取りに行くときに、少しだけ」
 「差し替えられてた写真、新堂さんは写ってるけど、そのアシスタントの子はどれにも写ってないの。ちょっと意図的な匂いがしない?」
 「……どういう意味ですか?」
 「その子が、泉ちゃんのパソコンを使った可能性。何ヶ月も近くで見ていたら、パスワードを盗み見することだってできたかもしれない」

 私は気がついたら立ち上がっていた。

 「それは違いますっ。絶対に!」

 ありえない、そんなこと。
 よりによって、玲央くんを疑うなんて。

 けれどテーブルを挟んで座る杳子さんは。そんな私を冷静に見据えている。

 「泉ちゃん。あなたが新堂さんに憧れてこの仕事についたことは知っている。でも最近は、少し入れ込み過ぎなんじゃない?」
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