新堂さんと恋の糸
 「麻生さんの言うことも、客観的には一理あると思う。でも、新堂さんの事務所で何ヵ月も一緒に仕事をしてきて、一番よく分かってるのも櫻井さんよね?」
 「編集長…」
 「正直に言うとね、私個人としては犯人探しはそこまで優先順位は高くないの。もちろん名乗り出てきてくれるなら大歓迎なんだけど」
 「どういうことですか?」

 杳子さんが納得がいかなそうに問い返すけれど、編集長は軽く受け流しながら穏やかな声で続けた。

 「外部からのハッキングじゃないのはほぼ確定。ってことは、会社側の管理の問題。まず必要なのは再発防止の仕組みをきちんと作って、対外的にも見せることよ」

 一度足を組み替えて、私と杳子さんの顔を交互に見る。

 「パスワードの定期変更を義務化するとか、社内のアクセス履歴を一定期間残すとか……情報収集のために掲示板やSNSへのアクセス可能にしているけどそれに制限をかけるとか。その検討はもう上と進めてるから、そこは任せて」

 編集長の声は淡々としつつも納得できるもので、私は冷静になってもう一度椅子に座った。
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