新堂さんと恋の糸
それから私は有働くんについていく形で、近くの都立公園まで歩いて向かった。

私は露出計を渡したり指定された番号のレンズと交換したりといった手伝いをしつつ、公園内に咲く草花や、木々にとまる鳥を撮る様子を眺める。ときどき「違うな」とか「もう少しここが…」と首をひねりながらも、納得する写真が撮れるまで何度もシャッターを切る横顔は楽しそうだ。何度か現場で一緒に仕事をしたこともあるけれど、そのときとは全然雰囲気が違う。

公園での撮影はのんびりと進んで、その後もう一ヶ所行きたい場所があるという有働くんの言葉に頷いて、私たちは電車で移動した。

次は公園から一転、都会のビル群を撮影して有働くんが予定していた撮影は一通り終わった。

「これぐらい撮れたらいいかな。ありがとな、付き合ってもらって」
「ううん、こっちこそ意外と楽しかった。誘ってくれてありがとう」
「なんでそっちがお礼言うんだよ」

写真の撮り方一つにも個性がある。有働くんは知識もあるからそういったことも知ることができて純粋に楽しかった。何より一つの被写体と満足するまで向き合うというのは、時間がゆっくり流れているみたいでいい気分転換にもなった。

私たちは途中でテイクアウトの飲み物を買ったりしながら、目的地も決めずにぶらぶらと歩くことにした。

「自然もいいけど、こういう都会の街並みも好きなんだよな」
「分かる。都会に憧れてたからいまだにこういう高層ビルとかぼーっと見上げちゃうもん。あと、ああいうおしゃれなお店とか…」

そう言って見えてきたショップのショーウィンドウを見て、私は思わず足を止める。

「どうかした?この店入りたいの?」
「あ、ううんそういうわけじゃなくて…」

そのお店は、新堂さんにデザインを考えろと言われたあのアパレルショップだった。

「…取材を受けてもらう前に、ここの店舗のデザインを考えてこいって言われたことがあったの」
「それって店舗デザインを考えるテストってこと?そんなのあったんだ」
「テストっていうほど大げさなものじゃないんだけど。でもそのときにデザインに対する考え方とかいろんな視点を持つ大切さも教えてもらったし、改めてすごいなって思って」

そして、絵は上手くなくても、私の感性を誉めてくれたこと。

(あれは、本当に嬉しかったな…)

カシャ―――え、シャッター音?

隣を見ると、カメラを構えている有働くんがいて。
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