新堂さんと恋の糸
 麻生は同い年で、同じ大学のデザイン工学科。建築学部の俺とは学部も違うが、一年のときは共通科目で顔を合わせることも多くて、名前と顔は知っている程度の関係だった。

 俺が在学中に海外に出ていたこともあり、戻ってからはそれぞれ研究と卒論で忙しく、卒業後も会うことはなかった。

 「研究室からの預かり物を渡したいの。今から会えない?」
 「……なんで麻生が?」
 「教授が気を利かせて私に連絡してきたのよ。急ぎのものなんでしょう?」

 研究室からの電話に俺が出られずにいたことで、教授が「元教え子同士だし」と麻生に託したらしい。雑誌の特集記事を読んで、俺と文董社のつながりも把握していたのだろう。

 「分かった」

 そして俺は、外のカフェで麻生と会うことになった。

 「本当に久しぶり、卒業して以来よね?はい、これ教授からの預かり物」
 「わざわざ悪かったな」

 茶封筒を受け取り、中身をざっと確認する。強度計算の結果とコメント、俺が送ったデザイン画のコピー。必要なものはひと通り揃っている。それらをテーブルに置いて、コーヒーをひと口飲んだ。

 「でも、まさか新堂くんが私の後輩の取材相手になるなんてびっくり。世間って狭いわね」
 「そうだな」

 以前櫻井にかかってきていた電話で、彼女の上司が『麻生杳子』だと偶然知ったときは、さすがに驚いた。ただ、在学中から特別親しかったわけでもない。会話が弾むでもなく、俺は適当に相槌を打ちながらコーヒーを啜る。
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