新堂さんと恋の糸
 「デザイン工学の研究室に依頼なんて、何か大きなプロジェクトでも抱えてるの?」
 「別にそういうわけじゃない」
 「そうなの? 私もあの研究室だったから懐かしくて。どういう依頼だったの?」

 質問が矢継ぎ早に飛んでくる。そろそろ切り上げるか、と考え始めたところで、ちょうどクライアントから着信が入った。

 「悪い、少し出る」

 席を立って通話を済ませ、数分後にテーブルへ戻る。
 その瞬間――麻生が、テーブルの上のファイルを勝手に開いているのが目に入った。

 「さわんな…っ、」

 カフェにいる周囲の客が振り返るほどの声だったと思う。けれど、構っていられなかった。
 麻生の手には、俺が描いたデザイン画が握られていた。それらを取り返そうとするのを、麻生が手で制して避ける。

 「……これって、どういうことなの?」

 ハンギングチェアと、そこに座る櫻井の画。そして作品のタイトル。
 言葉にしなくても自明だった。俺は答えずに、麻生の手からひったくるように奪い取った。
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