新堂さんと恋の糸
 怒りの沸点は高い方だと自分では思っている。厄介なクライアント相手に、いちいち腹を立てていてもキリがないからだ。
 ただこのときばかりは、久しぶりに頭に血が上った。

 「櫻井がそんな真似をする人間だと思ってるのか?」
 
麻生が一瞬、目を瞬かせる。

 「櫻井は不器用なくらいまっすぐで、自分の憧れと仕事をちゃんと分けようとしてた」

 もし彼女が麻生が言うようなタイプなら、俺の取材なんかとっくに諦めてるだろう。
 
 「取材を受けたのは櫻井の熱意と感性に惹かれたからだ。もしそんなくだらない噂が広まったら、そう言うだけのことだ」

 こちらを見る麻生の目は、何を考えているのか読み取れない。けれど、その目が少し揺らいだ気がした。

 「……あの子ちょっと単純なところがあるし、すぐ人に懐くの。だから、憧れてた貴方と仕事ができて舞い上がってるだけよ。たぶん、憧れと恋愛を混同しているのね」

 したり顔で微笑みながら見上げてくる顔に気分が悪くなる。

 「二度と連絡してくるな」

 俺は掴まれた腕を振り解いて、足早に店を出た。
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