新堂さんと恋の糸
 そこからお酒が進んで、場の空気が少しずつ緩んでいく。
 だんだんと仕事の話からプライベートな話へと移っていって、そうなってくると自然と盛り上がるのは恋愛話。

 「えー!杳子さん彼氏さんと別れたんですか!?」

 杳子さんの向かいに座る派遣の女の子、七瀬(ななせ)さんが声を上げた。

 「そう、半月くらい前かな」
 「お付き合いされて長いって言ってませんでしたっけ?」
 「六、七年くらい?最初は振られたばかりで寂しくてって感じで、すぐ終わるかなって思ったけど意外と続いちゃった」

 行きつけのバーの常連さん同士で意気投合した聞いて、最初はそんな出会いがあるんだとびっくりしたのを覚えている。

 「でもやっぱりダメねー……終わるときはあっけなかったの。だから今は仕事が恋人!」

 杳子さんはあははと笑う。もう未練はないとでもいうような、そんな笑い方だった。

 「泉ちゃんの方は?この前合コン行ってなかった?」
 「ぅえっ、!?」

 私は思った以上に餃子の中身が熱かったのと、杳子さんからの突然の変化球に驚いてむせそうになる。

 「あれは、前の部署の子がどうしてもっていうから断れなくて…完全に人数合わせですよ。今は彼氏とか作る気ないですし」
 「えーそうなの?もったいない」

 私はレモンサワーを流し込みながら、元カレのことを思い出していた。大学時代の、バイト先の一つ上の先輩。仲は良くてずっと順調だったけれど、向こうが先に就職してからすれ違うことが増えていった。
 私が就職してからは生活サイクルが合わなくなって、元カレが遊びに来てもごはんを作ってあげられなかったり、きれいに掃除できてなかったり――徐々に私から気持ちが離れていたらしい。
 仕事を頑張ってるからって、それを言い訳にはできない――そう思い知らされた別れだった。

 「結局浮気されて……『お前がちゃんとしてないからだろ』って逆ギレされて終わりました」
 「うわ、それサイアクですねー……」

 七瀬さんが頬杖をつきながらつぶやく。


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