新堂さんと恋の糸
◇◇◇◇
玲央のNGにより、翌日からは事務所ではなく外で会うために待ち合わせをした。
「新堂くん、私まだお昼食べてないの。この近くでよさそうなお店があるんだけどそこに行かない?」
「俺は何でもいい」
時間通りに現れた麻生と連れ立って歩き出す。
不意に視線を感じて足を止めると、こちらを色を失くしたような表情で見つめる櫻井と目が合った。
「櫻井……?」
この場で鉢合わせたのは、完全に想定外だった。担当を外れたのだから事務所近くで会うはずがないと油断していた。
視線のぶつかった一瞬のあと、櫻井は隣にいた男の腕を掴んで、弾かれたように走り去る。追いかけたい衝動を押し殺し、その後ろ姿をただ見送った。
「今の、泉ちゃんと有働くんじゃない。落ち込んでると思ったけど元気そうね。ほら言った通りでしょ、あの子誰にでもすぐ懐くって」
有働――その名前に聞き覚えがあった。
事務所にいるときたまに電話をしていたり、風邪のとき家まで送っていた同僚。
「有働くんって同棲中の彼女がいるのよ。それでもあんなふうに近づいちゃうなんて、ああいうのを仕事熱心って言うのかしら?」
くすくす笑いながら俺の反応を窺う気配を、無言で振り切るように歩幅を速める。
「あら、気にならないの?」
「別にどうでもいい」
お前の話が、という言葉はどうにか飲み込む。
「つれないのね、可哀想な泉ちゃん」
「お前がそれを言うのかよ」
「これでも心配なのよ、可愛い後輩だから」
俺の返答に麻生は上機嫌な笑みを浮かべながらそう嘯く。
これでいい。麻生が吹き込む話をすべて真に受けて、俺から櫻井への気持ちが無くなっている――とにかくそう思わせる必要があった。そうすればそれだけ、櫻井は安全になる。
そして昨日――個展のレセプション開催の前日。
俺はこの日に切り札を持って“仕掛ける”ことに決めていた。
玲央のNGにより、翌日からは事務所ではなく外で会うために待ち合わせをした。
「新堂くん、私まだお昼食べてないの。この近くでよさそうなお店があるんだけどそこに行かない?」
「俺は何でもいい」
時間通りに現れた麻生と連れ立って歩き出す。
不意に視線を感じて足を止めると、こちらを色を失くしたような表情で見つめる櫻井と目が合った。
「櫻井……?」
この場で鉢合わせたのは、完全に想定外だった。担当を外れたのだから事務所近くで会うはずがないと油断していた。
視線のぶつかった一瞬のあと、櫻井は隣にいた男の腕を掴んで、弾かれたように走り去る。追いかけたい衝動を押し殺し、その後ろ姿をただ見送った。
「今の、泉ちゃんと有働くんじゃない。落ち込んでると思ったけど元気そうね。ほら言った通りでしょ、あの子誰にでもすぐ懐くって」
有働――その名前に聞き覚えがあった。
事務所にいるときたまに電話をしていたり、風邪のとき家まで送っていた同僚。
「有働くんって同棲中の彼女がいるのよ。それでもあんなふうに近づいちゃうなんて、ああいうのを仕事熱心って言うのかしら?」
くすくす笑いながら俺の反応を窺う気配を、無言で振り切るように歩幅を速める。
「あら、気にならないの?」
「別にどうでもいい」
お前の話が、という言葉はどうにか飲み込む。
「つれないのね、可哀想な泉ちゃん」
「お前がそれを言うのかよ」
「これでも心配なのよ、可愛い後輩だから」
俺の返答に麻生は上機嫌な笑みを浮かべながらそう嘯く。
これでいい。麻生が吹き込む話をすべて真に受けて、俺から櫻井への気持ちが無くなっている――とにかくそう思わせる必要があった。そうすればそれだけ、櫻井は安全になる。
そして昨日――個展のレセプション開催の前日。
俺はこの日に切り札を持って“仕掛ける”ことに決めていた。