新堂さんと恋の糸
 ◇◇◇◇

 私は次の日も、また次の日も十五時ぴったりに新堂さんの事務所を訪れていた。
 新堂さんはクライアントとの打ち合わせ中のためインターフォンを押さずに入ると、見慣れたいつもの作業スペースへと進む。

 本棚の本をすべて出して、ジャンルごとの仕分け作業が終わっていた。今日はそれらをサイズ別にまとめて、本棚へ収めていく作業だ。仕事で頻繁に使いそうなモデリングやPCソフトの本、デザイン専門書は、手に取りやすい上段〜中段に。分厚くて重い写真集や作品集や図鑑は、一番下の段に。

 あらかじめ買っておいた仕切りスタンドを棚の奥に入れてから、本を挟み込むように並べていく。

 「終わったぁ……!」

 一時間ほどかけて全部の本を棚に並べ終わった。整然と並んだ背表紙を眺めると、胸の中に達成感が広がる。

 (これならどこに何があるか一目で分かるし、使いやすくなったんじゃない?)

 そのとき、クライアントを見送り終えたらしい新堂さんが戻ってきた。

 「新堂さん!お疲れ様です、それからお邪魔してます」
 「あぁ…」

 やや疲れたような顔で入ってきた新堂さんは、ふと正面の本棚に目を向け――動きを止めた。

 「あ、あの、どうかしましたか?」
 「この本棚の整理、一人でやったのか?」
 「はい。昨日までに仕分けして、今日は並べるところまで」

 何か失敗してしまっただろうか、と胸がざわつく。

 (やりすぎちゃったかな……?勝手なことしたって思われた?)

 新堂さんは無言のまま近づいて、背表紙を指でなぞっていく。上段・中段の本、その並び、ラベルの位置。下の重い本まで、一冊一冊確かめるみたいに。
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