新堂さんと恋の糸
 「これは?」
 「あ、百均で買った仕切りスタンドです。本が倒れたり横なだれが起きないようにしたくて。元はフライパンを立てるキッチン用品なんですけど、サイズがぴったりだったので……」
 「へぇ……こういう使い方があるのか」

 関心したように、仕切りの端を軽く押している。

 「本が倒れるたびに直すのが面倒で、そのまま上に積んでた」
 「分かります。ブックエンドだと重さに負けて倒れちゃうんですよね」

 新堂さんは、もう一度棚全体を見渡した。

 「……ちゃんと“使う側”のこと考えてるんだな」

 ぽつりと落ちたその言葉に、私は思わず瞬きをする。

 「使う頻度の高いものは真ん中から上にある。背表紙の高さも揃えて視線が自然に流れるように配置されてる」

 (ちゃんと気づいてくれてる……)

 「どうしたら使いやすいか、めちゃくちゃ考えましたので」
 「雑用にしては上出来だな」
 「……それ、褒められてるんですか」

 私は少し口を尖らせると、新堂さんはふっと口元を緩めた。

 「成果が出てるなら合理的に評価してるだけだ。レシート出しといて、後で払う」
 「そんなのいいですよ。百均のですし、私が勝手にしたことですから」

 些細なことかもしれないけれど、自分のアイデアを認めてもらえたようで嬉しい。少しでも使いやすくなったと思ってもらえたのなら、それだけで十分だった。

 「変なやつだな」

 自然と顔が綻ぶのを隠せない私に、新堂さんが眉をひそめる。
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