新堂さんと恋の糸
 新堂さんは、自分のこめかみを指でとんとんと叩いた。
 
 「一度描いたものは覚えてるから、紙に残す必要がないってだけだ。別のクライアントに形を変えて提案して、採用されることもあるしな」

 (……そっか。アイデア自体が無くなるわけじゃないんだ)

 これはアウトプットしただけで、アイデアはすべて新堂さんの中にちゃんと残っている。そう思うと少し気持ちが軽くなって、段ボールからデザイン画の束を掴む。それ一気にシュレッダーにかけていって、紙の束が見えなくなると、私は神頼みをするみたいに手を合わせた。一つでも多く、次は報われてくれるといいなという思いを込めて。

 「次こそは日の目を見ますように!」
 
 ふと視線を感じて隣りに目をやると、新堂さんが変なものを見る目をしている。

 「言霊ですよ言霊!口に出した方が叶うかもしれないですし」
 「オカルト?」
 「せめて信心深いって言ってください」
 「……ほんとに変なやつだな」

 なんだか痛い子を見るような視線に耐えられなくて、新堂さんも手伝ってくださいよ!と、私は紙の束を押しつけた。
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