新堂さんと恋の糸
 しばらくの間、室内には無機質なシュレッダーの機械音が響く。

 途中まで手伝ってくれていた新堂さんも、手持ちの分だけ終わらせると窓際へと移動して外を見始めた。単調な作業に飽きたのかもしれない。

 「今日の打ち合わせは終わりなんですか?」
 「いや、十八時からもう一件ある、リモートだけどな」

 そうなんですね、と返事をする。
 すると新堂さんが何かを思いついたように、指でこちらへ来るように合図をした。私は不思議に思いながらも、作業の手を止めて窓辺に立つ新堂さんへと近づく。

 「道路挟んで向かいの通りに、アパレルショップがあるだろ」
 「?はい、見えます」
 「あの店舗デザインを任されたとして、どういうデザインにするか来週までに考えて来い」

 (店舗をデザインする?私が??)

 思ってもみなかった話に、私の頭が追いつかない。

 「実際じゃなくて仮定の話だから」
 「それは分かってますけど……っ、デザインの勉強なんてちゃんと習ったことないですし、デザインの編集部に来てまだ半年くらいで――」
 「だから、興味がある」
 「……え?」

 新堂さんは、さっき整えた本棚へと視線を向けた。

 「なんか……発想が普通と違うから面白いものが出てきそうな気がして、見てみたくなった」
 「普通と違うって。これも、雑用の一環なんですか?」
 「さあな。解釈はご自由に――じゃあ、来週楽しみにしてる」

 新堂さんは一瞬悪い笑みを浮かべると、コーヒー淹れに部屋を出ていってしまった。

 「なんなのもう……!」

 私はわけの分からないまま、重い宿題を抱えて事務所を後にすることになってしまった。
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