新堂さんと恋の糸
 ◇◇◇◇

 翌週の月曜日、私は新堂さんの事務所近くに、いつもより早めに着いていた。
 というのも――週末のあいだ『アパレルショップの内装デザイン』のお題をずっと考えていたのだが、何一つ形にならなかったからだ。

 (デザインの勉強もちゃんとしてないのに、店舗デザインを考えるって……無茶振りにもほどがある)

 それでも、何かヒントになるものが欲しくて、私は道路を挟んだ向かいのアパレルショップの前に立っていた。ショーウィンドウには、スタイルのいいマネキンたちが今年の秋物をまとって立っている。ディスプレイをつぶさに観察していると、店員さんと目が合ってしまった。
 たぶん、私が店内に入るのを迷っているお客に見えたんだろう。わざわざお店のドアを開けて「よろしければ店内のほうへどうぞ」と声をかけてくれる。

 (どうしよう、まだ勤務時間内だけど…)

 店員さんの営業スマイルに私は断ることができず、これもリサーチのためだからともっともらしい理由をつけて店内へと入った。
 店舗什器(てんぽじゅうき)はナチュラルウッド、天井や壁紙はアイボリーで統一されていた。商品のラインナップも甘めのナチュラル系がメインで、内装の明るく柔らかい雰囲気とよく馴染んでいる。

 (普通に、完成されてる……)

 お手本みたいな内装を前にして、店内に入ったのは失敗だったかもと思えてくる。店内をぐるっと回ってみても、何もアイデアは浮かんでこない。 そもそも私はただの編集者でデザインに関してはド素人なのに、なんでこんなテストをされないといけないんだろう。

 『これも、雑用の一環なんですか?』
 『さあな。解釈はご自由に――じゃあ、来週楽しみにしてる』

 これは新堂さん流のテストなのだろうか。もし何もアイデアが出せなかったら、取材を受けてもらえない可能性もあるのかもしれない。そう考えると、途端に焦りで胃の辺りがキリキリしてくる。

 (週にいくつもデザインを用意して、プレゼンにのぞんでいる新堂さんってすごすぎる…メンタルおばけだよ)

 結局何も思い浮かばないまま、もう少しで約束の十五時になる。そろそろ事務所に行かないといけない時間だ。
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