新堂さんと恋の糸
 私は大急ぎで事務所へ行き、いつもの作業スペースへ直行する。

 そして、さっきお店で思いついたアイデアをノートに書き留めていく。文字だけではうまく表現できなくて簡単に絵も描いてみた。新堂さんが描いていたラフ画とは雲泥の差でため息が出るけれど仕方ない。

 「……よし、こんな感じでいいかな」

 我ながら悪くないアイデアのような気がする。一通り描き終えたところで満足して、私は廃棄するカタログを整理する作業に移ることにした。

 「えっと、これは三年前…こっちは、七年前?」

 部屋の隅には、「処分予定」とラベルの貼られた段ボールが山積みになっていた。各ブランドやプロダクトのカタログがぎっしりつまっている。編集部でも似たような光景を見てきたから、溜まっていく事情は分かる気がした。

 私はそのうちの一冊も手に取ってペラペラとめくる。いろいろなデザイナーのプロダクトデザインが載ったカタログだった。

 (あ、これ面白い……こっちは素材の使い方が素敵)

 気になるページを切り抜いて、クリアファイルに挟んでいく。単純に“自分の好きなもの”を集めている感覚で、作業はどんどん楽しくなってきた。こういうときが、やっぱり私はデザインが好きなんだなぁと実感する。もし新堂さんが不要だと言ったら、自分用に持って帰っていいか聞いてみることにしよう。

 そうしてしばらく時間を忘れて没頭していると、ガチャッとドアが開く音がして私は顔を上げた。
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