新堂さんと恋の糸
 「ちょっと、意外でした」
 「意外って?」
 「今まで一度も顔を合わせていないし、挨拶もいらないって言われていたので…その、嫌われてるのかなと思ってたんです」

 私の言葉に目を丸くして、少しだけバツが悪そうにフードの上に手をやる。

 「あぁー…別にそういうわけじゃないよ。ちょっと初対面の人が苦手なのと、あの部屋に寝泊まりしてるから勝手に開けられたら困るだけ」
 「え、家に帰ってないんですか?」
 「っていうかここが家だから。このビルの名前見てない?」

 ビルの名前?
 確か《MINAGI BILLDING》… MINAGI、美凪……??

 「気づいた?ここ俺の家が所有してるビル」
 「え、ええっ!?」

 (新堂さんのアシスタントだけれど、事務所があるビルのオーナーの息子ということ??)

 「俺、専門学校辞めてすぐに新堂さんのところに転がり込んだんだ。でもそのおかげで賃料も安くしてるからWin-Winな関係ってわけ」
 「な、なるほど……?」
 「そういうわけだから、勝手にドア開けられるのは困るけどそれ以外は気にしないでいいよ。俺のことも玲央でいいし。ポメ子さん話しやすいから」

 ニコニコと毒気のない笑顔で言われると、もはや呼び方を訂正する気も削がれてしまった。
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