新堂さんと恋の糸
 「ところでさ、このスクラップも新堂さんの指示?」
 「いえ、これはそのまま捨てるのもったいないので、気になるデザインだけ取っておきたいなと思って」
 「もうトレンドが変わってるんじゃない?」
 「そうですね。単純に私が好きでやってるだけなので」

 玲央くんは隣の椅子に座ると「こういうテイストが好きなんだ?」と、ちょうど私がスクラップしようとしていたインテリア家具の切り抜きをつまむ。

 「はい、どこかに和の要素が入っているのを見ると惹かれちゃいますね」
 「あぁーこの脚の部分とか、新堂さんが賞を獲った作品に似てるね」
 「あ、やっぱりそう思います?でもこっちはちょっと尖ってて、主張が強いですけど」

 新堂さんのは、もっと全体のテイストと調和していて、でもちゃんと個性が残っているからすごい。

 「ポメ子さんって、本当に新堂さんのデザイン好きなんだね」
 「そうですね。なんかこういうのを見ると、デザインの力ってすごいなあって思って」

 私は切り抜いた一枚一枚をファイルに収めていく。

 「私の地元も木工製造が盛んだったんです。でも今は職人さんも減って、工場や工房も閉鎖していて……私の実家もそうでした」

 両親が工房を畳むと決めたのが、私が中学のときだ。

 『若い人はこういうの買わないでしょ?』
 『時代の流れだから仕方ない、私らの代で終わりにする』

 本当にやめてしまうのかと聞いた私に、地元で幾度となく耳にした言葉と同じことを両親も言った。
 正直私自身も、もっとおしゃれなものに夢中で憧れていた頃で、地元の民芸品売り場を見ては古くさいと思っていたし、小さい頃は遊び場だった両親の仕事場にも、もうずっと行っていなかった。
 気づいていたのに――地元では、どんどん工房が無くなっていっていること。でも何の根拠もなく『自分の家は大丈夫』だと思いこんでいた。

 「それで『ここまでやってきたのに』とか『私も手伝うから教えてほしい』とか……いろいろ言ったんですけど」

 ―――絵もロクに描けんくせに、偉そうなこと言うな。
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