新堂さんと恋の糸
 新堂さんはデスクにタンブラーを置いて、私がデスクの上に広げていたノートを覗き込んだ。そこには、私がさっきまで描いていたラフスケッチ。慌ててノートを閉じようとしたのを阻止されてノートを持っていかれた。

 「これ、俺が先週言ったやつの?」
 「そうです、私なりに考えてみて…その、メモ書きなので汚いですけど」

 私は今日実際にお店に行ってみて遭遇した、買い物中のカップルの話をした。

 あのお店のターゲットは若い女性で、洋服の品ぞろえもレディースメインであること。カップルで買い物に来た際に、女性が試着中の間は男性はやることがなくて、どうしても時間を持て余してしまう。

 「お店の入り口付近に、メンズ物の雑貨――バッグやサングラスのディスプレイがあったんですけど、それを試着室の手前に配置すれば、試着待ちをしている間に手に取ったり見てもらえるんじゃないかと思ったんです」
 「レジが入口の左側に変更になってるのは、ここが今のメンズ雑貨売り場ってことか」
 「そうなんです。試着室前に売り場を移動すると、レジとバックヤードが狭くなってしまいそうで…」

 新堂さんは顎に手を当てると、さっきまで玲央くんが座っていた場所に腰を下ろす。手に持っていた私のノートをデスクの上に置くと、ラフ画の上に指を滑らせた。

 「レジを入り口近くに持ってくると、客は反時計回りに店内を一周する回遊動線になる。これ自体は悪くない。問題は、あの店舗の間口が広くないってことだ」

 そう言いながら、ラフ画に指を滑らせる。
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