新堂さんと恋の糸
 幸いポーチの中にストッキングの替えはあるけれど、絆創膏がない。
 この前、靴ずれの応急処置で使ってから補充するのを忘れていた。

 今からコンビニを探して絆創膏を買って、ストッキングを履き替えて…はたして時間はどれくらいかかるだろう。

 (悩んでいたって仕方ない、とにかく急がないと!)
 
 「あの、助けていただいてありがとうございました、私もう行きますっ」

 立ち上がろうと体重をかけると同時に痛みが走って、思わずブロック塀に手をついた。

 「……っ、」
 「ほら……言ったそばから」

 打った右膝と足首、そして腰の痛みで顔が歪む。
 捻挫とかはしていないと思うけれど、これはゆっくりしか歩けないかもしれない。

 時計を確認すると、約束の時間まで二十分と迫っていた。

 今から遅れることを連絡しないと。
 でも忙しい中時間を割いてもらったのに、事情を説明したとしても遅れると聞いて会ってもらえるだろうか。

 (どうしよう、ここまできたのに……)

 「打ち合わせの場所って、この先のセントラルタワービルだよな」
 「え、はい……そうですけど」

 どうして知ってるんだろう。
 そんな私の疑問も、次の瞬間にすべて吹き飛んでしまった。

 彼の右手が私の背に回ったと同時に左腕が膝裏に入ると、私を横抱きにして持ち上げられたからだ。
 あまりにもあっけなく目線が同じになって、私は声も出ない。

 「え……!?ちょ、ちょっと待ってくださいっ!?」
 「何?その足のままじゃ、時間内に歩いて着くのは無理だろ」
 「そ、それはそうですけど、」

 眼鏡でも隠しきれていない端正で整った顔が眼前に迫ってきて、私は心臓が爆発しそうなほどバクバクしている。

 (だめ、こんなの心臓がもたない…!!)

 すれ違う人がみんな振り返っているし「何あれ?」とか「ドラマの撮影?」みたいな声も聞こえる。遠巻きに見られる視線も痛かったけれど、今は逆に目立ちすぎて恥ずかしい。

 「で、でも、みんな見てますっ、」
 「周りの目より、他に心配することがあるだろ」

 私の抗議や周囲の目など気にも留めずに、そのまま歩き出してしまう。

 「時間に間に合いたいんだったら大人しくしてろ。舌噛んでも知らないぞ」

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