婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています

 最初は2キロのダンベルひとつを両手で持ち、腹筋の体勢で体を左右にねじる「ロシアンツイスト」というトレーニング。
 このようなマシンを使わず、ダンベルやバーベルを使ってトレーニングする方法を「フリーウェイト」というらしい。

「フリーウェイトはひとりの時にはまだやらないで。マシンと違って自由に体動かせる分、負荷をかける場所を間違えると、体傷めるから」
「こ、これ……ほんとに初心者向け?」
「喋んないで呼吸して」
 数回上体をひねっただけなのに、すでに腹筋がつりそうだ。
「ほら、休憩はせめて十回やってから」

 少し動きを止めただけなのに、悠貴は容赦がない。

 おかしい。

 パンフレットの「初心者でもOK!」のページにあった、実際の会員さんとトレーナーの笑顔のトレーニング風景は嘘だった?

「体起こしすぎ、腹斜筋使ってるの意識して」

 どこの筋肉なの、それは!
 そう、心の中でツッコんだ時だった。

「ここ」

 唐突に、お腹の側面を下から上に向かって指でスーッと撫でられる。
 
 声こそ出さなかったが、触れるか触れないの微妙なタッチで触られたせいで、腰の辺りがゾクッとした。
 いきなりなにするのと思い悠貴の方を見たけど、彼は表情一つ変えず「ん?」と聞いてきただけだった。
 
 そっか。

 彼はなんとも思っていない。
 トレーニングの指導が仕事なんだから、そりゃお腹の筋肉のひとつやふたつ、遠慮なく触るだろう。
 
 ここでは、いちいち反応してる私の方がおかしいんだ。
 そう思うとなんだか悔しいような恥ずかしいような気がして、ひたすら体を大きくひねった。
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