婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
今夜、実家に彼氏を連れていく予定だった。
24歳の時に、取引先で出会った彼。
冗談を交え場を和ませつつ、スマートに商談を取りまとめる彼は頼もしくてかっこよく見えた。
同い年なんですね、なんて世間話から始まって、自然な流れで付き合って5年。
私たちは、このまま結婚するんだと思っていた。
世間では昔ほど『女の幸せは結婚』と決めつけられなくなってきた。
けど、友達が次々に結婚、出産していく中で羨ましいという思いはどんどん大きくなる。
もう少し若い頃はなんとも思わなかったのに、30歳を目前にして安定した人生というものが急激に魅力的に見え始めた。
それに好きな人と結ばれ家庭を持った人は、それだけで人生がランクアップしているように見える。
だから、彼がやっと両親に会ってくれると言ってくれた時は内心ホッとしていた。
なのに――。
「『今日やっぱやめない?』って言われて。なんで? って食い下がったの。そしたら彼怒っちゃって、ほら、私って普段あんまり言い返さないから気に障ったみたいで」
一度話し出すと止まらなくなって、玲央の相づちも待たずにしゃべり続ける。
「だって、普段のデートならドタキャンされたってなんにも言わないけど、せっかくお母さんや玲央たちがご飯も準備して待ってくれてるのに。申し訳ないでしょ」
「そいつのことちゃんと殴った?」
「忘れてた」
まあ、私が本当にそんなことできるわけないんだけど。
そんなことより、最後に言われた言葉が衝撃的で最悪だった。
――瑠衣、いい加減察してくんない? 俺、別に結婚とか考えてないから。
あと正直、最近お前のこと女として見れてない。世話焼き過ぎて母さんにしか見えない……体型的にも。
前より太ったし。
こうして、5年間の交際はあっけなく終わってしまった。
「太ったのは認める。でも仕事柄お菓子は積極的に食べて研究したいからしょうがないの!」
「開き直っちゃったか」
「仕事のために体を犠牲にしてるの!」
「うん偉い、すごいよ」
5歳年下の弟になだめられる大人ってどうなんだろう。しかもめちゃくちゃなことを言っている自覚もある。
半分ほど残していたハイボールを一気に飲み干し、グラスをテーブルに置く。ドン、と思ったより大きな音が出た。
「てかさ、5年も付き合った彼女捨てるなんて最早犯罪! 私もう29なのに。ナントカ遺棄罪でしょっぴけるよ!」
「……姉ちゃん酔いすぎ。テンション変だよ」
「え? 大丈夫!」
酔いを回すために飲んでいるのだから、なんの問題もない。
そうでもしないと、自分の不甲斐なさや家族への申し訳なさ、そして自分の将来が一瞬で無くなった事実に押しつぶされてしまいそうだった。