婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
「あんたバカなの」
パニックになった頭の中で、呆れたように呟いた青年の声が静かに響いた。
「……え」
気がつくと、私の腕を掴むサングラスの男の腕を、青年がひねり上げていた。
「いっ、いだだだだだだ!」
さっきまで大人しくされるがままだったとは思えない、どこにそんな力があったのか。
青年によって男が地面にはっ倒され、かけていた眼鏡が地面に転がった。
「てめぇなにすんだ!」
いきり立つ柄シャツの男が、青年に近づいていく。
危ない、そう口にするよりも前に彼は振り上げられた拳を器用にかわし、バランスを崩したところにすかさず足を出し転ばせた。
「ぐっ……!」
あんなにオラついていたのに、ふたりともあっけなく地面に転がった。
次々に男たちが伸されていく様子をポカンと見ていると、いつの間にか目の前に来ていた青年に二の腕を掴まれた。
ハッとすると、周りには人だかりができていた。スマホを向けている人もいる。
「行くぞ」
「え」
「早く」
腕を強く引かれて、走り出した青年に引きずられないよう一緒に必死に足を動かした。