婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
【第4章】

第14話:「はあ? 違うわよ」


 一緒にクリスマスマーケットに行ったあの日から、悠貴は変わった気がする。
 
 相変わらずからかってくるような言動をすることもあるけれど、雰囲気が柔らかくなったというか、甘くなったような気がする。
 
 そして、私の気持ちも変化していた。
 変わったというか、認めることにしたのだ。

「瑠衣さん、体触っていい?」
「ひゃっ」

 頭のすぐ後ろで悠貴の低い声が響いて、驚いて変な声を上げてしまう。

 今は、チェストプレスのマシンでトレーニング中だった。
 チェアに座った体勢で、左右についたバーの先にあるグリップをそれぞれ両手で掴んで、肩甲骨を寄せるようにバーを引く。
 バストアップや姿勢改善に効くトレーニングで、普段仕事で固まりがちな筋肉を伸ばせて気持ちがいい。
 
 せっかく集中してやっていたのに、悠貴のせいで台無しだった。

「お、おどかさないでよ!」

 振り返って、平常を装うようにわざと大きな声で抗議する。
 思ったより高い声が出てしまって、恥ずかしかったのだ。

「おどかさないように声かけたんだけど」

 悠貴はまったく悪びれる様子もなく笑うと、「ほら前向いて、続けて」と再開を促した。

「もう……」

 まだ胸がドキドキしている。
 それでも、言われた通りトレーニングを続ける。

「もう少し胸広げて」

 悠貴の指示通り、肩を思い切り寄せて胸を張ってみる。

「小胸筋……ここの筋肉伸ばすの、わかる?」

 後ろから、悠貴の指が両の鎖骨の外側に触れた。
 脇と胸の境目の辺り。

 ちょうどウェアに覆われていない肌をなぞられる。

「っ……」

 皮膚が薄い場所だからか、ぞわりとしたくすぐったさを感じてしまう。
 悠貴の指の感触を、あまり感じないように我慢する。

「なんか力入った、力抜いて? ……そうそう、上手」

 すぐ後ろで悠貴が優しく笑った気配がして、たまらない気持ちになる。

 ――ただの指導に、こんなに動揺してどうするの。
 高まる気持ちを抑え込もうと、心の中で必死に自分を叱咤する。

 悠貴のことが好き。
 そう認めた時から、一層トレーニングでのやり取りで意識してしまうようになった。

 いちいち「触ってもいい?」と聞いてくるのも私を気遣ってのことなんだろうけど。
 それに「うん」と答えるのもなんだか恥ずかしい。
 
 悠貴の指が、肌の上をスッと移動する。

「あっ……」
「キツい?」

 焦らすような触り方に、思わず腰が浮いてしまう。
 すかさず「ちゃんと深く座って、足閉じすぎると変に力入る」と指示が飛んできた。

「やってるつもり、なんだけど……」
「前できたのになんでだ……? 負荷かけすぎたか?」

 ぶつぶつとひとりで考えていた悠貴が、思いついたように声を上げた。

「足閉じないように押さえてていい?」
「だ、だめ!」

 その言葉に色んな想像をしてしまって、カッと熱くなった顔を横にブンブン振った。

 もう早く終わって。
 切実にそう思いながら、残りの時間を耐え忍んだのだった。

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