婚約破棄されたぽちゃOL、 元スケーターの年下ジムトレーナーに翻弄されています
たどり着いたジムは、想像以上に大きかった。
7階建てのビル丸ごとがトレーニングジムになっていて、フィットネスジムとレンタルジム、そしてパーソナルジムが併設されていて、それぞれで階層が分かれているらしい。
更衣室やシャワールームも完備されていて、ホテルみたいなキレイな内装に少し気分が上がった。
ネットで買った可もなく不可もなくといったありがちなウェアに着替え、ロビーに戻る。
肩にギリギリつく程度のボブヘアは、邪魔にならないようしっかりまとめた。
玲央はフィットネスジムで適当にトレーニングしてくるということだったが、その前に友達と私を引き合わせてくれるらしい。
玲央らしき白いウェアの男性が誰かと話しているのが見えて、小走りでそちらに向かう。
待たせたらいけない。
……今になって緊張してきた、どんな人だろう。
様子を伺うように彼らのそばへ近づいて――ハッと息をのんだ。
一週間前の夜。
至近距離まで近づいた、あの瞬間がフラッシュバックする。
あの時と同じグレーのウェア、何を考えているのかよくわからないクールな表情、少しつり目な意志の強い目元。
間違いなく、あの青年だった。
目が合うと、彼の口から小さく「あ」と声が漏れた。
表情はあまり変わってないけど、向こうも驚いているみたいだ。
「あ、姉ちゃん。こいつが悠貴。どお? 結構イケメンじゃない?」
「……え?」
驚いて上手く反応できずにいると、玲央が口を尖らせた。
「ちょ、思ってなくてもそうだねとか言ってやってよ」
「玲央、変なこと言うな」
「なんだよ、場を和ませてやろうと思ったのに」
「……返答次第で俺が傷つく、かもしれないだろ」
「え、お前そういうの気にするタイプだったっけ」
軽快なやり取りを見るに、本当に玲央の友達らしい。
「じゃあ、ふたりとも仲良くやってね」
「え、待ってもう行くの!」
引き合わせて紹介すると言ったくせに、玲央はさっさと行ってしまおうとする。
行かないで、なんか気まずい。もうちょっとここにいて欲しい。
「え? だってこれからのカウンセリングで自己紹介とかするでしょ」
「それにしても雑すぎるだろ、お前電話であんなに丁寧に頼んできたくせに……」
「あーもうふたりしてそんなビビらなくても。大丈夫だって俺の友達と俺の姉ちゃんなんだから、心配しないでいいよ!」
そう言って、玲央はエレベーターの方に歩いていってしまった。
よっぽどこのジムにあるトレーニング器具が気になるらしい。
玲央の友達なら安心できる、そう思っていたのに。
予想外の再開に、まだびっくりしている。
「じゃあ、俺たちも行きますか」
「……は、はい」
微妙な距離を空けて、彼の後ろについて行った。