二次元彼氏がいるのでリアルな恋は遠慮します
 この前の夜は、声を掛けてくれたのだろう。

 口に出さずとも疑問に思う気持ちが顔に出ていたのが、桐島くんが答えてくれた。

「あなたが、俺の隣で眠ったから。今なら声を掛けられるかも、って思ったんです」

 桐島くんが微笑むのと同時に、電車のドアが開く。気付けば、もうあと一駅で私の最寄り駅だ。
 ということは、桐島くんの最寄り駅は通り過ぎているわけで。

 今なら、まだ電車を降りて反対側のホームへ行けば引き返せる。
 それなのに、桐島くんは動こうとしなかった。

「……そっか。ありがとね、声を掛けてくれて」

 ほとんど人がいなくなったのをいいことに、深く座席に沈み込む。

 いま、ここで目を閉じたら、桐島くんはあの夜と同じように最後までついて来てくれるのだろうか。

 そんなことを考えてしまうのは、ずるいのかもしれない。

「私、ちょっと寝ようかな……」
「いまから、ですか……? そろそろ降りないと、ですよね?」
「……うん。でも、眠いから」

 嘘だ。ちっとも眠くない。
 
 だけど、私の言葉ですべてを察したのだろう。
 桐島くんが目を丸くして驚いたのち、ふっと表情を崩した。

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