恋するお弁当箱
「失礼ですが、狭いところが苦手でいらっしゃる?」
「そうなんです」
 えへへ、と笑った咲穂は力が抜けたようにへなへなと床に座り込んだ。

「どうしました!?」
 男性が膝をついて咲穂を助け起こそうとするが、咲穂は大丈夫です、と手でジェスチャーを送った。
 座り込んだせいで、天井が今までより高く見える。そのおかげか、少しは呼吸が楽になった気がした。

「停電してないし、空調も動いてるし、大丈夫……」
 自分に言い聞かせるようにつぶやき、それから男性にむりやりな笑顔を向けた。

「よかったら一緒にお弁当を食べませんか?」
「は?」
 男性が目を丸くするから、イケメンは驚いてもイケメンなんだな、と妙なところで感心した。

「こうして座ると天井が高く見えるので気が楽です。それに、お弁当を食べてる間は忘れられそうですから。ピンチのときはまず落ち着くのが大事です」
 そう言ってランチバッグを見せるが、その手が震えていて、気付かないで、と咲穂は願う。
 彼はまた驚いたようだったが、すぐに床に座り込んだ。

「一緒にいただきましょう」
 咲穂はほっとした。とっぴな提案である自覚はあったが、こうして気をまぎらわすことにつきあってくれる人がいるのはありがたい。

「じゃあ開けますね」
 ランチバッグからお弁当のお重をバッグから取り出し、床に置いて包みを開けた。莉子と一緒に食べるつもりだったからふたり分だ。一段はミニおにぎりつめあわせ、もう一段はおかずの詰め合わせだった。
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