恋するお弁当箱
 意識しちゃダメ。
 そう思って咲穂は莉子にスマホでメッセージを送る。
 エレベーターが止まってしまったからお昼を一緒に食べられないかもしれない、と。
 莉子からはすぐに電話がかかってきた。

『ちょ、大丈夫なの? 怖くない? すぐ動くの?』
「作業の人が来てくれるらしいから、大丈夫だと思う」
 莉子を心配させないように、答える声が震えないように気を付けた。

 本当は怖い。すぐに出たい。
 だけど大丈夫、きっと大丈夫。

 ばくばくする心臓を落ち着かせるように胸に手を当てて、深い呼吸を心がける。気を付けないと呼吸が早く浅くなるし、そうなると過呼吸になってしまうかもしれない。過呼吸で死ぬことはないとはいうが、ならずにすむならなりたくない。

 電話を切ると、男性と目が合った。
 男性は気遣うようにこちらを見ていて、なんだかいたたまれない。

『もしもし、竜ノ門ビルテクノサービスですが』
 声が降って来て、ふたりは顔をあげる。
『少し時間がかかりそうです。そのままお待ちください。防災キャビネットがあるので、水分補給などにお使いください』
「わかりました、ありがとうございます」
 応答した男性はすぐに三角形のキャビネットを開けた。中には非常食や水などが入っていた。

「水、いかがですか?」
 彼がペットボトルを手に聞いてくれたが、咲穂は首を横に振った。
「大丈夫です」
「ですが、顔色がよくないですよ」
 言われて、咲穂は思わず手に顔を当てた。
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