恋するお弁当箱
「エレベーターでピクニックみたいにお弁当を食べたことが知られたら伝説が増えるかもしれませんね」
「バレないようにしないと」
 そう答える咲穂に、彼は慈愛に満ちた目を向けた。

「あなたはお強いですね」
「え?」
 咲穂はきょとんと彼を見る。

「苦しい状況を自分で変えようとする。簡単にできることじゃないですよ」
「逆になにもできないから開き直ってるっていうかなんていうか」
 誤魔化すように笑うと彼の目が笑みに細まった。それが妙にまぶしくて咲穂は目をそらす。

「あのお弁当箱、姪御さんに渡しました?」
 咲穂が話題を変えると、男性は困ったように首をかしげた。

「実は、姉が同じお弁当箱を買ったあとだとわかったので渡せていないんです」
「そうだったんですね」

「よかったらあのお弁当箱、もらってもらえませんか?」
 言われて、咲穂はきょとんとした。

「譲ってもらったのをおかしな言い方ですね。お返ししたいです」
「いえ、そんな」
 咲穂は慌てて手を振った。
「でも俺が持っていても仕方がないですから」

 それは確かにその通りだ。一度はあきらめたものの、やはり手に入るものならば手元に置いておきたい。
 あのあと、ネットで売っていないかと調べたが、高額転売ばかりが見つかって断念した。転売は違法ではないのかもしれないが、不当な値段のものを買う気にはなれない。
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