恋するお弁当箱
「開発の方って調整のときにもいらっしゃるんですね」
「これは試験運用ですから。普段のメンテナンスならメンテナンス部の担当ですね」
 言ってから、彼は彼女に向き直って頭を下げた。

「あのときのエレベーター停止、弊社の掃除ロボットが原因でした。巻き込んでしまって申し訳ありません」
「いえ、大丈夫ですから」
 咲穂は慌てて手を振ってなんでもないと伝える。

「今後、デザインの変更はありうるんですか?」
「大幅にはないかと思いますが……どうしてですか?」

「猫みたいにしたほうがかわいいかな、なんて。すみません、素人の考えで」
「いや、そういうのは大事です。猫……いいですね、猫」
 彼が大きく頷くので、咲穂は恥ずかしくなってしまった。

 ふたりで事務フロアまで戻ると、すかさず樹絵里が現れた。
「今後のために連絡先を教えてください~」
 樹絵里はにこにこと賢翔に言う。

「個人的にということでしたらお断りします。俺はあなたに興味ないんで」
 ずばっと断る彼に、樹絵里だけではなく咲穂も驚いた。こんなにはっきり言う人はなかなか見ない気がする。

「では、静谷さん。また連絡させていただきます」
 社会人の距離感で頭を下げる賢翔に、咲穂も慌てて頭を下げた。
 さっそうと去る背中を見送り、それから樹絵里に向き直る。

「高壺さん、いきなり連絡先を聞くなんて失礼ですよ」
「人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んじまえって有名な言葉、知らないんですか?」
 むっとして反論する樹絵里に、咲穂は頭を抱えた。
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