恋するお弁当箱
「それでも仕事中に個人の連絡先を聞いてはいけません」
「運命に出会ったら仕事なんて関係ないじゃないですか」
 ああもう、と咲穂が顔をしかめたときだった。

「高壺さん、さっき頼んだコピー、やってくれた?」
 莉子が割って入った。
「えー、断りましたよね、私のレベルがやる仕事じゃないです」
「いいから! 早く!」
 莉子がせかすと、樹絵里はしぶしぶ歩き出した。

「咲穂、ああいうのはまともに相手したらダメだって。説得しようとしてもずっと反論してきて埒が明かないから」
「そうだね」
 はは、と咲穂は気力なく笑った。

 社会人として指導しなくてはならないと思うのだが、樹絵里が相手ではのれんに腕押しだ。
 彼女が契約解除となるまで平穏無事に過ぎますように、と咲穂は祈った。



 シャワーも食事も終えて、自宅のベッドに腰かけてのんびりスマホを見ていたときだった。
 賢翔からメッセージが届き、驚いた咲穂はスマホを落としそうになった。
『お弁当箱をお渡ししたいのですが、ご都合のよろしい日をお知らせください。俺は土日は基本、あいてます』
 咲穂はそれを見て固まった。

 同じビルにいるのだから仕事帰りに落ちあって受け取るのが一番合理的だ。だけど、土日はあいてます。ということは、受け渡しに土日を想定しているのだろうか。ということは休日に会うわけで、渡して終わりとはならないだろうし、私服で会うなら変な格好はできないし。

 思考がぐるぐる空転してまとまらない。
 カレンダーとにらめっこして、結局、『私はいつでも大丈夫です』と答えた。
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