恋するお弁当箱
 彼が連れて行ってくれたのは夜景の見えるレストランだった。濃茶の柱に白い壁がクラシックなのにモダンで、シャンデリアもまた現代的なデザインだった。
 窓際に座ってメニューを見ると、値段が書いていなかった。こういうところのメニューは男性側にだけ値段が書かれていると聞いたことがある、と思って彼をちらっと見ると、目があった彼がにこっと笑い、心臓を撃ち抜かれた。

「どうしました? 決まりましたか?」
「実はこういうところは初めてで、どうしたらいいのか……」

「苦手な食材はありますか?」
「特にはないです」

「では本日のおすすめにしましょうか」
「お願いします」
 優柔不断な人間だと思われただろうか、と心配になる。

 食事はなごやかに進んだ。日頃の仕事の話や、彼の趣味がドライブであることなどを聞いた。
「狭いところが苦手のようですが、車は大丈夫なのですか?」
 彼の質問に、咲穂は素直に答えた。
「場合によります。身内や自分の運転だと大丈夫なんですけど、タクシーは苦手ですね。窓がいっぱいあるから狭さが軽減されてて、我慢できないわけじゃないんですけど。いつでも外に出られる感覚があれば大丈夫みたいです」

「なるほど。では俺の車で出かけるのはどうでしょう?」
 言われた咲穂はきょとんとした。それから、ドライブに誘われているんだ、と気づいて急に心臓がどきどきする。
「あの、正直に言うと、わかりません」
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