恋するお弁当箱
 かび臭い落ち葉に囲まれて上を見上げると、小さく青い空が見えていた。
「誰かー! 助けてー!」

 叫んでも、どこからも返事がない。なんども叫んで喉が嗄れた。土の壁はのぼろうとしてもぬるぬるしていて、しっかりつかむことができない。そもそもチワワをおいてひとりだけ登ることが許されるとも思えない。

 怖くて怖くて泣いたが、それでも状況が変わることはない。最後はチワワを抱いて、ただ恐怖に震えていた。このままここで死ぬのかな、とまで考えた。このときチワワがいなかったら、もっと苦しくて怖かっただろうと思う。

「だいぶたって大人が探しに来てくれて、それで助けてもらえました。時間にしたら一時間くらいだったらしいんですけど、それ以来、狭いところが苦手です」
「随分と怖い思いをしましたね」

「私ってドジですよね」
 えへへ、と笑うと彼は首を横にふった。
「これからは俺がすぐに助けに行きますよ。いつでも呼んでください」
 さらっと言われて、咲穂は飲んでいた水を噴きそうになった。

「ありがとうございます」
 かろうじて礼を言うと、にこっと甘やかな目に迎えられて心臓が落ち着かない。

「弱点をさらされると、男はその人を守りたくなるものですよ。しっかりしている人ならなおさら、ギャップでやられます」
「そうなんですか」

 デザートのチョコレートケーキが届き、咲穂はフォークでケーキを切る。中から、濃厚なチョコレートソースがあふれ出て、ケーキをからめて食べると全身を甘さが駆け抜けた。

 食事を終えても名残惜しく話をして、それでもようやく重い腰を上げて席を立つ。
 支払いは彼がしてくれて、店を出てから咲穂が払おうとしても彼は受け取ってくれなかった。
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