恋するお弁当箱
「静谷さんも、人がほしがるようなもの持ってこないで。問題がある人がいるのがわかってるんだからさ、自衛するのは普通でしょ」
 係長は面倒くさそうに言い放ち、返事も待たずに歩いて行った。

「感じ悪っ! それこそ幼稚園でも小学校でもないってのに!」
「まさかお弁当箱を欲しがる大人がいるなんて思わないじゃん……」
 莉子が小声で文句を言い、咲穂はがくりと首を垂れる。

「備品の盗難って高壺さんがやってるって噂があるけど、ますますそれっぽい。ネットで売ってたりして」
「なくなったのって使いかけのボールペンとかスティックシュガーとかだよね?」

「フリマサイトを見たらさ、ラップの芯とか使いかけの化粧品とか売ってるんだよ。化粧品は使ってみて肌に合わなかったから売りに出してて、安く試したい人が買うらしいけど。ラップの芯は子どもの工作とかで必要な人が買うんだって。でも納豆についてるからしも売ってるくらいだし、それだと使いかけのペンとかも買う人いそうじゃない?」
「確かに。……自衛、かあ」
 咲穂はミャミャーのお弁当箱を見つめる。

「腹立つけど、しばらくお弁当はやめたほうがいいかもね。契約が切れるまでの我慢だよ」
「そうだね」
 咲穂はため息をついて、お弁当の蓋をあける。が、食欲はすっかり失せていた。



 午後は妙に樹絵里にじろじろと見られて落ち着かなかった。
 お手洗いに行って戻ってくると、樹絵里が咲穂の机の引き出しを開けていて驚いた。

「なにしてるんですか?」
「別に」
 樹絵里はまともに答えず、ぷいっと立ち去る。
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