恋するお弁当箱
 朝礼では咲穂のロッカーがへこまされたことが伝えられ、やった人は名乗り出るように、と課長が言っていた。
 そんなの天罰じゃん、と樹絵里は内心で嘲笑う。
 咲穂は前から気に入らなかった。なにもかも恵まれていて、幸せそうな感じが腹が立つ。

 さらには他社のイケメンと親しそうなのも許しがたい。
 自分は子どものころから不遇をかこってきた。ほしいものがあっても母親は買ってくれず、みんなが持っているものを自分も持ちたいだけなのに、誰も譲ってくれない。

 そうして自分だけをのけものにして、みんなは幸せになっていく。
 そんなずるいこと、許せない。

 特に咲穂からはひとよりいっぱい、自分にわけてもらう必要があるだろう。お弁当を作ってくるほど余裕があるんだから、恵まれない自分におすそわけをするのは当然の義務のはずだ。

 資料作成を頼まれた樹絵里はAIにそれを丸投げした。
 AIはすぐにそれっぽいものを作成したので、ノーチェックで依頼者にそれを送信する。

 こんな簡単なんだから自分でやればいいのに、と思いながら自分のSNSサイトをチェックする。
 そこにはブランドバッグを肩にかけた自分が映っていた。昨日、仕事帰りにブランドショップに行って撮影したものだ。ほかの写真も店で服を試着したときなどに撮影したものが映っている。

 フォロワーから多くのいいねをもらっている自分はインフルエンサーと言っていいだろう。
 コラボ案件がこないかな、そしたらこんな会社はすぐにやめてやる、と思っていたときだった。

「高壺さん、話があるんだけど」
 振り向くと、タブレットを持った課長がいた。

「なんですかあ?」
「会議室で話しましょう」

 課長がそう言うから、樹絵里はしぶしぶ会議室へ行く。
 会議室で席に着くと、課長は切り出した。
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