恋するお弁当箱
 あいつのせいだ、と樹絵里の脳裏に咲穂の顔が浮かぶ。
 私はなにもしてませんみたいな顔をして、その裏では課長に言いつけたにちがいない。ちょっとロッカーをへこませたくらいでうっとうしい。

 そもそもロッカーに鍵をかけるのがおかしい。鍵がかかってなければすぐに開けてミャミャーのお弁当箱を持って帰ることができたのに。咲穂の机をあさってもロッカーの鍵がなくて、それで仕方なく蹴っ飛ばしただけなのに。蹴っ飛ばした足が痛くなったのにロッカーが開かなくて、骨折り損のくたびれ儲けだ。

「大人として、静谷さんには自分で謝りなさい。話は以上です」
 話を打ち切られ、会議室を出る。

 咲穂はなにもなかったかのようにパソコンになにかを入力していてこちらには気が付かない。
 樹絵里は怒りに燃える目で咲穂をにらみつけた。

***

 定時後、仕事がひと段落した咲穂は念のために社内メールをチェックした。
 すると、樹絵里からのメールがあって、どきっとした。

 なんの用だろう。
 どきどきしながら開くと、意外な内容が書かれていた。

『昨日、ロッカーにぶつかっちゃったので、謝るから倉庫に来てください。待ってます』
 メールの発信時刻はつい先ほど。席を見ると彼女はいない。

 ロッカーにぶつかった、と言っているということは破壊したのが彼女ということなのだろう。
 彼女から謝りたいというのは非常に珍しい。昼間に課長に呼び出されていたから、よほど怒られて反省したのだろうか。
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