恋するお弁当箱
「嘘!」
 なんど見ても圏外の表示は変わらない。そういえば、と莉子との会話を思い出す。ロボット掃除機が魔の通路で止まる原因のひとつに電波が届かない、というのがあったはずだ。

 咲穂は再度、ドアを必死に叩いた。
「誰か、お願い気付いて、誰か!!」
 叫ぶ間に呼吸は浅くなり、心臓の鼓動は早くなる一方だ。

 ダメだ、落ち着いて。呼吸は深く、ゆっくり。そう思うのに、息は浅く早くなる。

 倉庫なんて毎日使う場所ではない。用事がないかぎり、来ることはない。
 次に人が来るのはいつだろう。明日か、明後日か、もっと先か。

 ここには食料どころか水もない。エアコンもなくて寒い。果たして自分はいつまでもつのだろうか。
 咲穂は恐怖に体を震わせた。呼吸はコントロールのしようもなく、もっと浅く早くなり、しだいに手足がしびれ、硬直してくる。
 過換気症候群だ、と気付いたときにはもう遅い。手がうまく動かず、スマホが手から滑り落ちた。

 落ち着け。これで死んだ人はいないって聞くし、落ち着け。
 遅くとも明日になったら莉子が気付いてくれる。自分がいないことで課長に相談したりして、気付いてくれるはずだ。

 目を閉じて、草原を思い浮かべようとする。
 ここは広い場所。自分は目を閉じているだけ。狭くない、広い場所にいる。だから落ち着いて。
 必死に自分に言い聞かせる。

 だが、どれだけ自分を落ちつけようとしても呼吸は落ち着かず、咲穂はずるずると床に座り込んだ。

『これからは俺がすぐに助けに行きますよ。いつでも呼んでください」
 賢翔がそう言ってくれたのは二日前。だが、呼びたくてもスマホが通じない。彼が助けに来てくれることはない。

「助けて、織山さん」
 泣きそうな咲穂の声は、誰にもとどかずにこぼれて、消えた。
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