恋するお弁当箱
「備品は会社のものだから他人のもの、ねだられたらいい気分はしないよ」
「私だったらほしいって言われたら、それだけ羨ましがられるもの持ってるんだって嬉しくなるもん」
 話が通じない。これではいつもと同じだ。説得しよう、納得させようとするから無理なのだ。彼女に届く言葉になっていない。

「本当にずるいのはあなたじゃない。努力もなしに幸せばかり欲しがってるんだから」
「他人を妬むのはよくないですよ」
 断言した咲穂に課長が続け、樹絵里は恨みがましい目を向けた。

「課長とか男を味方につけて、女の武器を使ったわけ? そうやって私を虐めて楽しい?」
 あまりのことに咲穂は絶句した。課長も言葉を無くしているが、賢翔は怒りをたぎらせた。

「謝罪しろ。侮辱がすぎる」
「本当のこと言っただけじゃない! なによもう! ネットでこのこと言ってやる! 私の三百人いるフォロワーが黙ってないんだからっ!」
「え」
 咲穂は驚いて樹絵里を見た。彼女はいったいフォロワーをなんだと思っているのか。

「驚いた? 謝ってももう遅いんだからね! 私ってすごい人気なんだから! お弁当の写真とか、すごいいいねが付くのよ!」
「まさか、私のお弁当の写真?」

「だったらなんなの」
 樹絵里の唸るような声に、咲穂はあきれた。他人のお弁当を自分の手柄のようにしていいねを稼ごうとする神経がわからない。と同時に、どうしてあれだけお弁当の写真にこだわっていたのかがわかった気がした。
< 42 / 45 >

この作品をシェア

pagetop