恋するお弁当箱
「いや、三百人で人気って。うちの娘だって千人くらいフォロワーがいるのに」
 課長が目を丸くして言う。
「はあ!? 嘘ばっかり! みんなして私のことばかにして!」
 樹絵里は泣きながら会議室を飛び出して行った。

「待ちなさい!」
 課長が追いかけるのを、咲穂は苦い思いで見送った。
 彼女はこれからもこうして逃げるのだろう。現実を直視せず、自分の見たいように現実を歪めて眺め、努力をせずに成果が手に入らないかと願いながら。

「ご迷惑をおかけしました」
 咲穂は賢翔に深々と頭を下げる。

「あれから体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
 咲穂が笑顔を向けると、賢翔はほっとしたように笑顔になった。

「なかなかに強烈な人ですね」
「どれだけ注意してもきいてもらえなくて……最後までダメでした」
 悲しく笑うと、賢翔は慈愛のこもった目で咲穂を見る。

「わかりあえない人はいます。それはあなたのせいではありません」
「そうですけど……」
 目を彷徨わせると、ふっと笑う気配があった。

「あなたはやはり優しいですね」
「いえ……」
 どう答えたらいいのかわからず、そう濁すしかできなかった。

「週末……、もう明日ですね。どうしますか。無理そうならまた今度に」
「いえ、大丈夫です」
 咲穂が慌てて答えると、優し気に笑う彼と目があった。

「では、明日。楽しみにしています」
「はい」
 彼の声はどこまでも優しくて、咲穂はどきどきと頷いた。
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