恋するお弁当箱
「エレベーター、止まりましたね」
 声をかけられて振り向き、咲穂は驚いた。

「あなたは、昨日の」
 男性もまた驚きに目を丸くしていた。

「こんにちは。こんな偶然、あるんですね」
「まったく驚きました。しかし困りましたね。停電ではないようですが」
 デジタルの階数表示は消えていないし、空調もちゃんと動いている。

 男性が非情通話ボタンを押すと、『はい、竜ノ門ビルテクノサービスです』と返答があった。
「エレベーターが止まったんですが、なにかあったんですか?」
『少々お待ちください』

 しばらく間があったのちに、
『確認しました。原因は不明です。何名が閉じ込められていますか? ケガ人や体調の悪い方はいらっしゃいますか?』
「閉じ込めは二名、体調不良は……」
 彼が咲穂を見るので、彼女は首をふった。

「体調不良者はいません」
『ありがとうございます。遠隔操作でも動かないようですので、すぐに作業員を向かわせます』

「はい、わかりました。すぐに対応してもらえるそうです……大丈夫ですか?」
 男性は応答してから咲穂を見た。

「大丈夫です」
 咲穂は震えながら答えた。
 そもそもエレベーターは苦手だ。ここのエレベーターは外が見えるからなんとか乗れるが、止まって閉じ込められたとなると話は別だ。
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