【WEB版】「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~

12 騎士フィンとの出会い

 私が気づいた時には、もう夜になっていた。
 森の中にいるのは変わらない。しかし、夜だ。魔獣が出る森で?

「……!」

 横になっていた身体を無理やりに起こす。ここはどこ?
 周囲は木々に囲まれているが、少しだけ開けていて夜空が見えるような場所。
 草などもなく野営に適したような場所みたい。目の前には焚火があった。
 焚火?

「目覚めたかい?」
「……! あ、貴方は……」
「ああ、あやしいものじゃない。キミを襲ったわけでもないよ。覚えているかな?」

 焚火の向こうには青い髪をした若い男性が座っていた。
 若いが私より少し年上のようだ。
 どうやら焚火の番をしているみたい。その顔に見覚えは、ある。

「あの魔獣から助けてくれた……あ! リーフェルトくん! 小さな男の子は⁉」
「それなら、そっちに寝ているけど」
「え?」

 指差されたのは私のすぐそばだ。
 リーフェルトくんは私の隣で寝ていた。

「リーフェルトくん! 無事、なんですよね?」

 すぐに抱き起したいが、体を揺らしていいのかわからない。
 リーフェルトくんも気を失うように倒れたはずだ。
 頭をぶつけていないだろうか。

「大丈夫だと思う。魔獣の威圧に当てられたんだろう。休ませていれば明日には目を覚ますよ」
「そ、そうなんですね。よかった……」

 ホッと胸を()でおろす。
 リーフェルトくんに何かあったらどうしようかと。

「それで、ええと。助けてくれてありがとうございます、騎士様。あの時、あの瞬間、あなたが来てくれなければ、きっと私たちは……死んでいたと思います」
「うん。ギリギリ間に合ってよかった。こちらも少し危ない助けをしたが、許してほしい」
「え? 危ない助け方……ああ」

 槍を思いきり投げつけていたものね。
 その槍は、私の目前に迫った魔獣を貫いた。
 つまり、狙いが少しでもズレていたら魔獣と私の立場は逆だったのだ。

「……!」

 ブルリと身体を震わせる。なんて恐ろしいこと。

「……すまないな」
「え?」

 何を謝られたのかわからず、私は首をかしげた。

「あの魔獣、もっと早くに仕留められればよかったんだが……。とうとう、こんな遠くまで逃がしてしまった。そのせいでキミたちをこんな危ない目に遭わせた。すまない」
「騎士様はあの魔獣を追っていらしたのですか? それでこの森に?」
「そうだ。バルナーク領にいる内に仕留めたかったのだが……」
「バルナーク領」
 私たちが暮らす農村から、この森を挟んで東の領地。
 リンドブルム領の隣にある、バルナーク伯爵が治めている伯爵領だ。
 確かに魔獣の噂はそちらから発生していたものだった。
 ならば、あの魔獣こそが噂の原因か。

「討伐の手が足りなくてね」
「そうでしたか。大変なのですね」
「ああ……」
「えっと。あ! 私、アーシェラと申します。この子はリーフェルトくんです」
「ん。俺の名はフィンだ。フィン・バ……いや、ただのフィンでいい」
「フィン様、ですね。本当にありがとうございます。こんな森まで来てくださって」

 フィン様は困ったような笑顔を浮かべて首を振った。

「助けるのが、かなりギリギリになってしまった」
「いえ、その。すみません。魔獣が出るとは聞いていたのに森に入って……」
「いや、そろそろ冬備えの時期だろう。この時期に森に入るのは仕方ない。俺が仕留めきれなかったのが悪いんだ」
「そんなことは……。一応、私たちも対策はしていたんですけどね」
「鳴子のことか?」
「はい。見られましたか? 東側から来たらかかるよう森に広く仕掛けていたはずなんです。それが鳴れば、すぐに村に引き返すつもりでした」
「そうか……。あの魔獣について聞いている話はそんなものか」
「え? というと?」
「魔獣とは獣のくせに魔法を使うから魔獣と呼ばれる」
「はい、それは知っております」
「今日倒したアイツは、かなり警戒心が強くてね。罠を魔法で解いてしまう。落とし穴なんかも察知する。『罠探知・解除』の魔法とでもいうものを使うんだ」
「ええ……?」

 何それ! およそ獣が使う魔法とは思えないものだった。
 もっと咆哮に乗せたスタン技とか、衝撃波とかそういうものじゃないの?
 まさかの罠サーチ魔法と罠解除魔法!
 人間よりよっぽど複雑な魔法を使ってない?
 そんなものを、あの大型の鹿が使うとかとんでもない。

「なんだかんだで罠が効かないというのが一番に厄介でね。そうなると自力で倒すしかなくなる。見つけるための罠も解除するから今回みたいなことにもなる」

 なるほど。罠類が効かないとなると自力で探して、自力で戦うしかないのか。
 そんな魔獣が存在するのね。流石に厄介すぎないかしら。

「だが、確認されている個体はアレだけだ。同等の個体は今のところない。アレは倒したから、安心してほしい」
「そうなんですね。それはありがたいことです。命を助けていただいただけでなく、今後の生活も助けられました。フィン様……あ、すみません。名前を呼んでしまっていました」
「いや、そこはいい。気にしないでくれ、アーシェラさん」
「そうですか?」
「ところで」
「はい、フィン様」
「その子は……その。キミの……弟、かい?」

 弟。うーん。見た目的にはそう見えるのかな。

従姉弟(いとこ)なんです。リーフェルトくんは私の叔母さんの子供で。ただ、今は私がリーフェルトくんの親代わりをしています。親代わりというか、保護者というか『家族』ですね」
「……なるほど? すまない。何か事情があったか」
「いえ、私の方は、とくにこれ以上何かあったわけではないですから」
「そうか。……その。若く見えるのに子連れというのが気になってね」
「そうですよね。まだ子持ちには見えませんよねー」

 なんたって十七歳である。
 精神年齢? 精神年齢は肉体年齢です。そうしましょう。
 フィン様だって当然のように私が若いと認めているもの。うんうん。

 なんとなく、そこで会話が途切れ、沈黙が続く。
 だが悪い気はしなかった。心地のいい時間。
 彼は命の恩人なのだ。もっとお礼ができたらいいのだが。

「今日のところはここで一泊する予定だ。少年も休ませたいし、キミもまだ休んでいた方がいい」
「……魔獣以外の獣は心配ないのですか?」
「それは心配ない。これがある」

 そう言ってフィン様が腰から何かを取り出した。
 金属の装飾に珍しい刻印が刻まれていて、妙な雰囲気を醸し出している。

「それは……アーティファクトですか?」
「ああ」

 都市部では生活魔法の込められたアーティファクトが人々の生活を補助している。
 この国におけるインフラ技術だ。
 でも、アーティファクトにするものは、だいたい生活魔法のはず。
 それ以外の魔法のアーティファクトは正直、値段が高い。
 高位貴族の攻撃魔法が流出することはほとんどない。危ないものね。

「これは〝獣よけ〟のアーティファクトだ」
「獣よけ……」
「通常の獣であれば寄ってこない。寄ってくるとすれば魔獣ぐらいだ」

 魔獣は寄ってくるんだ。

「魔獣狩りで他の獣に邪魔されるとキリがないからな。貴重品だが……。魔獣は駆除した。だから、これがある限り今夜は心配要らない。ついでに虫よけにもなるぞ」
「それは、とてもありがたいですね」

 違う効果のように思うけど一緒なのかしら? 獣よけと虫よけって。

「安心して休んでくれればいい。俺も仮眠を取りつつ、一応は警戒しているから。こういうことには慣れている心配しないで」

 慣れているのか。
 魔獣討伐なんて仕事、騎士一人でこなすものなのかしら。
 獣よけのアーティファクトなんて持ち出して。
 フィン様はバルナーク領の騎士の中でも前線を任せられるエース騎士?
 槍投げの一投で、あんな大きな魔獣を仕留めたのだ。
 その実力は申し分ないだろう。

 正直、もっと私に余裕があれば、もうあの姿だけで彼に惚れ込んでいてもおかしくない。
 命の恩人。
 死ぬ間際のところを颯爽(さっそう)と助けられ、その相手が見た目爽やかな美形の異性。
 惚れちゃう要素てんこ盛りよね。話していても嫌な感じもしないし。

 あいにくと私は、その最高のシーンでまともな会話をすることもできず気を失ったけど。
 ちなみに血飛沫とかは平気な人です、私。公爵令嬢なのに?
 いえ、もう村でね。豚とか鳥をつぶすなどの処理とか普通にあるので、すぐ近くで。
 お肉はとても貴重なもの。命に感謝していただくのみである。
 リーフェルトくんのような男の子には、お肉をたくさん食べてもらいたい。
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