【WEB版】「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~
25 新生活
現バルナーク伯爵こと、フィン様の年齢は二十三歳だそうだ。
「若い」
私がもうすぐ十八歳になるので、およそ五歳年上だ。
この国における成人年齢は前世より低い。
なのでフィン様も十分に大人の扱いだ。
かつ、前バルナーク伯爵が引退している。
それは、おそらくフィン様が伯爵の実務をこなせると判断したからなのだろう。
そんなフィン様の暮らす屋敷は、使用人が、今はたった三人だけの超精鋭体制。
しかも住み込みで働いているのは六十歳越えのベラさんだけという。
元乳母ということから、ほとんどフィン様の家族のような人なのだろう。
そんな状況の屋敷で私とリーフが暮らすの?
伯爵家的にどうなのだろうか。
私は若い女性だし、子連れだ。
愛人や隠し子と疑われないか?
「あー……。まぁ、だが。せっかく部屋が余っているのだから使ってくれた方がね」
フィン様に懸念点を相談すると苦笑いされた。
他意はないのだろう。
私も正直、贅沢を言える立場ではない。受け入れよう。
「では、お言葉に甘えさせていただいて」
「ああ、気にしないで自由に使ってほしい」
「ありがとうございます、フィン様」
とはいえ、だ。農村の民家で満足していた私たちにとって、領主の屋敷は如何に手入れが追いついていないとしても広さを持て余す。
たぶん、私とリーフそれぞれ別の部屋を使ってもいいのだろうが……。
「リーフは私と一緒の部屋でいい?」
「うん!」
まぁ、そうだよね。
なにせ、私たちは『家族』なのだから。ふふ。
私とリーフは日あたりのいい部屋を一緒に使わせていただく。
「わー!」
なお、リーフにとっては探検のようなものだ。
今の身体の大きさから見る屋敷は素晴らしい宮殿にでも見えているかもしれない。
「フィン様に許可をいただいて屋敷の探検をさせてもらおっか」
「うん!」
私は宿に残していた荷物を部屋に置きつつ、リーフと一緒にフィン様のもとへ。
「屋敷の案内、もとい探検か。いいな。いろいろと説明したいことも出るかもしれないから、俺も一緒に行くよ」
「え、フィン様がじきじきにですか?」
「ああ、こういう時は自分で動かないとね」
「お忙しいのに」
「いや、そこまで忙しくはないよ。できることも少ないからね」
聞く限り、領地の困難はそう簡単には解決しないようだ。
大変なのだろう。
「元気を出していきましょう!」
「そうだな、アーシェラさんの言う通り」
とても気休めにしかならない元気づけの言葉をかける。
フィン様も苦笑いだ。
私が右手でリーフの左手をつなぎ、歩きだす。
案内してくれるフィン様は、そんなリーフの右側を歩いて。
するとリーフは右手でフィン様の左手を取った。
「えへへ」
そうして笑う彼は、本当にありきたりな言葉だけど天使のよう。
この笑顔が見られるならなんだってしてあげたいという気持が湧く。
フィン様は少しだけ驚いていたけれど、朗らかに笑ってくれた。
「あはは。なんだか、こうしているとまるで……」
そう言いかけてフィン様は言葉を濁して微笑む。
きっと私と同じことを思ったのだろう。
でも口にはしなかった。
リーフに変な期待をさせてもいけないからね。
……そう。こう思ったの。
『まるで本物の三人の家族みたい』って。
そう言えるだけの絆は、私たちにはきっとまだない。
もちろん一緒にいた時間だけがすべてとは思わないけれど。
初日は屋敷の探検を三人でした。
フィン様だけでなく、ゴンツさん、ベラさん、リンダさんにもいろいろと話を聞いた。
この人手であってもフィン様は領主としての仕事をため込んではいないようだ。
また、バルナーク領の領民には慕われている領主だという。それはよかった。
なんていったって自ら武器を取って魔獣を討伐してくれる、格好いいヒーローなのだもの。
そんな人が領民に慕われていないわけがないわ。
リーフの世話をしつつ、料理担当も分担させてもらう。
料理担当はベラさんと聞いていたが、他の人もわりとこなすそうだ。
フィン様も料理をするらしい。アウトドアな料理なのだとか。
私も、前世のおかげでこういうお料理系を最低限こなせるのよね。
なので、私も料理をする。
リーフと住み込みで働けて、培った技能が活かせる職場なんて、フィン様には感謝しかない。
「じゃーん! どうかしら?」
「わー、かっこういい!」
「ふふ」
簡素なメイド服に着替えた私は、リーフに披露する。
前世感覚がある私は、メイド服を着ることにちょっと嬉しい気持ちがある。
「アーシェラさんに着せるようなものでは本来ないと思うが」
「そんなことはありません。屋敷の使用人になったのですから、当然の仕事着です」
私は公爵家の縁者ぶるつもりなどないので、一般使用人と変わらない。
加えていろいろと仕事をこなす予定なのだから適した服装の方がいい。動きやすいし。
メイド服を着こなし、まずは屋敷のお掃除。
今まで手が回っていなかった場所に手を伸ばす。
もちろん、無駄を省くために今も使っていない部屋はあと回しだ。
今まで働いてくれていたリンダさんたちに楽をさせてあげないとね。
生活魔法は貴族の屋敷で働く者なら使える者が多いんだけど。
あいにくとバルナーク領ではそうではなかった。
屋敷で働く三人とも生活魔法を使えない。
ならば、ここは私の出番というものだろう。
「──浄化」
おなじみの浄化魔法を使って、ちまちまと屋敷を綺麗にしていく。
出力問題で一気に部屋全体は無理なので、やっぱり大変だけどね。
日々の衣食住だけでお釣りがきているようなもの。これ以上の贅沢は言うまい。
「ここを畑に……私が使ってもいいのですか?」
「ああ。まずは屋敷の庭で自由に研究してもらって、そこから領地に移していこう」
バルナークの屋敷は三階建ての建物で、周りをぐるりと壁で覆われている。
鉄柵の正門と、使用人が通るための裏門は金属の枠と木製の板でできている扉。
屋敷と外周の壁の間には庭があり、そこは乾いた地面で、まばらに雑草が生えていた。
畑とは言い難い土の質だが、スペースは十分に確保されている。
外周の壁があるので外からパッと目撃することはできない。
鉄柵に近づいて視線を向ければ見えなくもないけど、それはもう不審者の行動だ。
「一応、キミは捜索から逃れている状況だからね。誰にでも目撃できる場所で【植物魔法】を使うのはよくないだろう。だから、ここを使ってくれ」
「ありがとうございます! フィン様」
これは家庭菜園なのでは?
しかも、ちょっと規模が広めの。
前世の日本基準だと豪邸と言い張ってもいい屋敷の庭で畑を作るのだ。
ちょっと楽しめそうじゃない?
もちろん、私は叔母さんの畑でいろいろと試していた。
こんなに早くまたこういう機会に恵まれるなんてね。
「ふふふ」
「ア、アーシェラさん?」
「あ、すみません。とても嬉しくて。本当にありがとうございます」
「いや。こちらからお願いしているようなものだから。これぐらいは当然だ」
「期待に応えられるよう、努めますね」
「ああ、ありがとう」
「若い」
私がもうすぐ十八歳になるので、およそ五歳年上だ。
この国における成人年齢は前世より低い。
なのでフィン様も十分に大人の扱いだ。
かつ、前バルナーク伯爵が引退している。
それは、おそらくフィン様が伯爵の実務をこなせると判断したからなのだろう。
そんなフィン様の暮らす屋敷は、使用人が、今はたった三人だけの超精鋭体制。
しかも住み込みで働いているのは六十歳越えのベラさんだけという。
元乳母ということから、ほとんどフィン様の家族のような人なのだろう。
そんな状況の屋敷で私とリーフが暮らすの?
伯爵家的にどうなのだろうか。
私は若い女性だし、子連れだ。
愛人や隠し子と疑われないか?
「あー……。まぁ、だが。せっかく部屋が余っているのだから使ってくれた方がね」
フィン様に懸念点を相談すると苦笑いされた。
他意はないのだろう。
私も正直、贅沢を言える立場ではない。受け入れよう。
「では、お言葉に甘えさせていただいて」
「ああ、気にしないで自由に使ってほしい」
「ありがとうございます、フィン様」
とはいえ、だ。農村の民家で満足していた私たちにとって、領主の屋敷は如何に手入れが追いついていないとしても広さを持て余す。
たぶん、私とリーフそれぞれ別の部屋を使ってもいいのだろうが……。
「リーフは私と一緒の部屋でいい?」
「うん!」
まぁ、そうだよね。
なにせ、私たちは『家族』なのだから。ふふ。
私とリーフは日あたりのいい部屋を一緒に使わせていただく。
「わー!」
なお、リーフにとっては探検のようなものだ。
今の身体の大きさから見る屋敷は素晴らしい宮殿にでも見えているかもしれない。
「フィン様に許可をいただいて屋敷の探検をさせてもらおっか」
「うん!」
私は宿に残していた荷物を部屋に置きつつ、リーフと一緒にフィン様のもとへ。
「屋敷の案内、もとい探検か。いいな。いろいろと説明したいことも出るかもしれないから、俺も一緒に行くよ」
「え、フィン様がじきじきにですか?」
「ああ、こういう時は自分で動かないとね」
「お忙しいのに」
「いや、そこまで忙しくはないよ。できることも少ないからね」
聞く限り、領地の困難はそう簡単には解決しないようだ。
大変なのだろう。
「元気を出していきましょう!」
「そうだな、アーシェラさんの言う通り」
とても気休めにしかならない元気づけの言葉をかける。
フィン様も苦笑いだ。
私が右手でリーフの左手をつなぎ、歩きだす。
案内してくれるフィン様は、そんなリーフの右側を歩いて。
するとリーフは右手でフィン様の左手を取った。
「えへへ」
そうして笑う彼は、本当にありきたりな言葉だけど天使のよう。
この笑顔が見られるならなんだってしてあげたいという気持が湧く。
フィン様は少しだけ驚いていたけれど、朗らかに笑ってくれた。
「あはは。なんだか、こうしているとまるで……」
そう言いかけてフィン様は言葉を濁して微笑む。
きっと私と同じことを思ったのだろう。
でも口にはしなかった。
リーフに変な期待をさせてもいけないからね。
……そう。こう思ったの。
『まるで本物の三人の家族みたい』って。
そう言えるだけの絆は、私たちにはきっとまだない。
もちろん一緒にいた時間だけがすべてとは思わないけれど。
初日は屋敷の探検を三人でした。
フィン様だけでなく、ゴンツさん、ベラさん、リンダさんにもいろいろと話を聞いた。
この人手であってもフィン様は領主としての仕事をため込んではいないようだ。
また、バルナーク領の領民には慕われている領主だという。それはよかった。
なんていったって自ら武器を取って魔獣を討伐してくれる、格好いいヒーローなのだもの。
そんな人が領民に慕われていないわけがないわ。
リーフの世話をしつつ、料理担当も分担させてもらう。
料理担当はベラさんと聞いていたが、他の人もわりとこなすそうだ。
フィン様も料理をするらしい。アウトドアな料理なのだとか。
私も、前世のおかげでこういうお料理系を最低限こなせるのよね。
なので、私も料理をする。
リーフと住み込みで働けて、培った技能が活かせる職場なんて、フィン様には感謝しかない。
「じゃーん! どうかしら?」
「わー、かっこういい!」
「ふふ」
簡素なメイド服に着替えた私は、リーフに披露する。
前世感覚がある私は、メイド服を着ることにちょっと嬉しい気持ちがある。
「アーシェラさんに着せるようなものでは本来ないと思うが」
「そんなことはありません。屋敷の使用人になったのですから、当然の仕事着です」
私は公爵家の縁者ぶるつもりなどないので、一般使用人と変わらない。
加えていろいろと仕事をこなす予定なのだから適した服装の方がいい。動きやすいし。
メイド服を着こなし、まずは屋敷のお掃除。
今まで手が回っていなかった場所に手を伸ばす。
もちろん、無駄を省くために今も使っていない部屋はあと回しだ。
今まで働いてくれていたリンダさんたちに楽をさせてあげないとね。
生活魔法は貴族の屋敷で働く者なら使える者が多いんだけど。
あいにくとバルナーク領ではそうではなかった。
屋敷で働く三人とも生活魔法を使えない。
ならば、ここは私の出番というものだろう。
「──浄化」
おなじみの浄化魔法を使って、ちまちまと屋敷を綺麗にしていく。
出力問題で一気に部屋全体は無理なので、やっぱり大変だけどね。
日々の衣食住だけでお釣りがきているようなもの。これ以上の贅沢は言うまい。
「ここを畑に……私が使ってもいいのですか?」
「ああ。まずは屋敷の庭で自由に研究してもらって、そこから領地に移していこう」
バルナークの屋敷は三階建ての建物で、周りをぐるりと壁で覆われている。
鉄柵の正門と、使用人が通るための裏門は金属の枠と木製の板でできている扉。
屋敷と外周の壁の間には庭があり、そこは乾いた地面で、まばらに雑草が生えていた。
畑とは言い難い土の質だが、スペースは十分に確保されている。
外周の壁があるので外からパッと目撃することはできない。
鉄柵に近づいて視線を向ければ見えなくもないけど、それはもう不審者の行動だ。
「一応、キミは捜索から逃れている状況だからね。誰にでも目撃できる場所で【植物魔法】を使うのはよくないだろう。だから、ここを使ってくれ」
「ありがとうございます! フィン様」
これは家庭菜園なのでは?
しかも、ちょっと規模が広めの。
前世の日本基準だと豪邸と言い張ってもいい屋敷の庭で畑を作るのだ。
ちょっと楽しめそうじゃない?
もちろん、私は叔母さんの畑でいろいろと試していた。
こんなに早くまたこういう機会に恵まれるなんてね。
「ふふふ」
「ア、アーシェラさん?」
「あ、すみません。とても嬉しくて。本当にありがとうございます」
「いや。こちらからお願いしているようなものだから。これぐらいは当然だ」
「期待に応えられるよう、努めますね」
「ああ、ありがとう」