【WEB版】「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~
26 菜園
家庭菜園というが、もちろん将来的には、この領地の特産品となるものを栽培したい。
前世で身近で、かつイメージしやすい作物の一つとしてバナナを思い浮かべたのだけど。
たぶん、この地方だと、いきなりバナナは厳しいわよね。
成長促進を使っても大樹にすることはできない。
バナナの木は背が高いはずだ。
気候も合っていないだろうから現実的じゃない。
将来的には育てたいけどね。
とすると、やっぱりトウガラシがいいのではないだろうか。
たしか、トウガラシは前世で北欧地域でも栽培されていたはず。
この国の緯度は知らないけど。
ただし、正確な栽培方法までは流石に知らない。
以前、トウガラシを使った時は赤い実になるまで魔法でゴリ押ししただけだ。
領地の特産品としたい以上、私以外でも栽培ができなければ意味がない。
あと思いつくのは……トマトとか、どうだろう?
たしか前世では〝世界で最も育てられている野菜〟なんて触れ込みもあったぐらいの作物だ。
地球の話だが世界規模の野菜だったならば、この地域でだって育つに違いない。
受け入れられるのに時間がかかったとしても、多くの人々にやがてなじみ深くなる作物のはずだ。
リンドブルム家やローデン家の食卓を思い出す。
トマトは食卓に並んでいなかったはず。
ということは、この国にはまだトマトは伝来していない。
私が知らないだけの可能性も大いにあるが、そこはフィン様に確認を取ればいい。
もちろん、それほどの野菜ならば、この世界のどこかにはきっとすでにあるのだろう。
でも別の国にあったとしても、この国に今ないのなら十分に特産品になり得る。
トマトといえば日本人になじみ深いのが赤色だが、黄色い品種もあって、それは昔のヨーロッパでは『黄金のりんご』なんて呼ばれていたはずよ。
黄色いトマトなら、この国の人たちにも受け入れやすいんじゃない?
そのまんま『黄金のりんご』と銘打って売り出してもいい。
「ふふ、楽しくなってきたわね」
バルナーク家での生活は充実していて、あっという間に過ぎていった。
私の前世知識プラス【植物魔法】の組み合わせは、かなり幅広い戦略を可能にした。
でも現実的な落とし所と、今後の領地での生産を視野に入れて、緻密な計画と研究が必要になる。
数日や数ヶ月ではだめなのだ。変わった作物ができて、少しだけ売り出しても意味がない。
地道に、堅実に積み重ねていく。
ベラさんたちや領民とも交流を重ねた。
リーフは遊び相手にゴンツさんやリンダさんのお子さんがいて、その子たちと遊ぶようになったわ。
数ヶ月があっという間に過ぎて、私は十八歳、リーフは八歳になった。
リーフと出会ってから、もう一年が経ったのだ。
「感慨深いわねぇ」
「んー?」
リーフをそばに寄せて一緒にベッドの端に座る。
「もう私たちが出会ってから一年経ったんだよ、リーフ」
「ん……」
私とリーフの絆はずっと深まった実感がある。
それにリーフはフィン様ともずいぶんと仲がいい。
「アーシェラお母さん」
「んー?」
こうしていられるのもいつまでかなぁ。
八歳になり、栄養状態も良好で、これからスクスクと成長していくだろう。
たぶん、日本人よりも成長が早いのではないだろうか。
でも、リーフが成長していく姿を見られるなら、それもきっと幸せよね。
「アーシェラお母さんとフィンお兄ちゃんは、こいびとにはならないの?」
「……⁉」
予想外のことを、予想外の口から聞いてしまった。
「な、何を言っているの、リーフったら」
「でも、みんな言ってるよ?」
「み、みんあって……」
私は顔に熱が上がるのを自覚する。
きっと見た目は真っ赤になっているだろう。
確かに。確かに最近、とくに意識することが多くなってきたとは思う。
フィン様は格好よくて性格がいいし、そのうえ私たちの命の恩人だ。
普段から会話することが多くて、領地のことも二人で話し合うことが増えて。
正直に言おう。私はフィン様を意識するようになっている。
それに……自惚れでなければ、フィン様も私を意識しているような……気がする。
でも、それはよく考えれば自然なことだった。
だってフィン様には婚約者がいない。
おそらく領地の問題と出会いの問題で縁がないのだろう。
つまり独り身である。
そんな彼のそばに、こんな距離感の、年齢の近い異性がいるなら。
よほどの相性の悪さがない限り、自然と互いに意識するものだろう。
しかも私にとっては暮らす場所まで与えてくれた人生の恩人でもある。
好感度なんて最初からMAXに近いのだ。
だけど、まだ決定的なことは互いに言えていないわけで。
この環境もよくない。
だって何もしなくたって一つ屋根の下で暮らしているんだもの。
そこをわざわざ冒険する必要があるのかっていうと、ね?
「僕……フィンお兄ちゃんが『お父さん』になってくれたら、嬉しいな」
「うっ……!」
リーフ、それは火力が強すぎる!
上目遣いに子供に言われると『じゃ、じゃあ子供が言うのだから仕方ないよね?』なんて気持ちになってしまう!
いや、実際。
リーフにとって、それは最良なのかもしれない。
フィン様にはずいぶんと懐いているし、憧れている様子だ。
尊敬できる大人の男性が、見たことのない自分の父親になってくれるなら、と。
きっとそう思うことだろう。
でも、そうは簡単に事が運ばないのが人間社会なわけで。
何もかも理想通りになんて、そんなことなるはずもないので。
「……そのうちに、ね。何も決まっていないから」
「うん!」
期待させるような確かなことは言えない。
フィン様の気持ちだけではなく、立場もある。
私自身の不安もあるから余計にそれ以上を言えなかった。
リーフからの追求はそこまでで済んで、ホッと胸を撫でおろすのだった。
大きな事件が起きたのは、リーフと話をしてから二週間後のことだ。
「ベラさん……!」
「ベラ!」
「うぅ、大丈夫です、アーシェラさん」
「全然大丈夫じゃないです!」
フィン様の元乳母である侍女、ベラさんが腰を痛めたのだ。
元から危なかったらしい。
私が来たことで、かなり楽ができるようになったと言っていたけれど彼女は高齢だ。
寄る年波には勝てない。
これは人間なら避けては通れない道だ。
フィン様と一緒にベラさんの療養体制と整える。
ベラさんは街に移り、医院が近く、家族がそばにいる場所で暮らすことになった。
この領地、都市部の医院には、主に領民のために仕事をしてもらっている。
領主の屋敷だけで医者を抱え込むより、領民への貢献を伯爵家が願ったのだ。
「ベラ。長い間、無理をさせてしまった。本当によく尽くしてくれた」
「いいえぇ。いつかはこうなると思っていました。思っていたよりも長くフィンお坊ちゃまのそばにいられて、私も幸せでしたよぉ」
「死ぬようなことを言うな。ただ街での暮らしに変わるだけなんだ、ベラ」
「ふふ」
フィン様とベラさんは、きっと彼が生まれてからの長い、長い付き合いだった。
「アーシェラさん、フィンお坊ちゃまのことをよろしくお願いします」
「ベラさん……。はい、必ず」
私は、フィン様の乳母だった人にそう言われて、彼女を見送ることになった。
彼女は死にそうなわけではない。
そこまで落ち込む必要はないのかもしれないが。
「……寂しい、ですね」
「そうだな……」
とうとう、バルナークの屋敷で暮らすのが私たち三人だけになってしまった。
ゴンツさんやリンダさんにも家庭がある。だから常駐はしていない。
フィン様もリーフと一緒だ。彼を一人にはできない。したくない。
「フィン様」
「ん……」
「これから、私たち三人で。一緒にがんばっていきましょう」
「……! そう、だな。一緒に」
私からは決して離れてはいかない。
大変な領地であったとしても。
彼に寂しい思いはさせない。
その気持ちはフィン様にも伝わったようだ。
前世で身近で、かつイメージしやすい作物の一つとしてバナナを思い浮かべたのだけど。
たぶん、この地方だと、いきなりバナナは厳しいわよね。
成長促進を使っても大樹にすることはできない。
バナナの木は背が高いはずだ。
気候も合っていないだろうから現実的じゃない。
将来的には育てたいけどね。
とすると、やっぱりトウガラシがいいのではないだろうか。
たしか、トウガラシは前世で北欧地域でも栽培されていたはず。
この国の緯度は知らないけど。
ただし、正確な栽培方法までは流石に知らない。
以前、トウガラシを使った時は赤い実になるまで魔法でゴリ押ししただけだ。
領地の特産品としたい以上、私以外でも栽培ができなければ意味がない。
あと思いつくのは……トマトとか、どうだろう?
たしか前世では〝世界で最も育てられている野菜〟なんて触れ込みもあったぐらいの作物だ。
地球の話だが世界規模の野菜だったならば、この地域でだって育つに違いない。
受け入れられるのに時間がかかったとしても、多くの人々にやがてなじみ深くなる作物のはずだ。
リンドブルム家やローデン家の食卓を思い出す。
トマトは食卓に並んでいなかったはず。
ということは、この国にはまだトマトは伝来していない。
私が知らないだけの可能性も大いにあるが、そこはフィン様に確認を取ればいい。
もちろん、それほどの野菜ならば、この世界のどこかにはきっとすでにあるのだろう。
でも別の国にあったとしても、この国に今ないのなら十分に特産品になり得る。
トマトといえば日本人になじみ深いのが赤色だが、黄色い品種もあって、それは昔のヨーロッパでは『黄金のりんご』なんて呼ばれていたはずよ。
黄色いトマトなら、この国の人たちにも受け入れやすいんじゃない?
そのまんま『黄金のりんご』と銘打って売り出してもいい。
「ふふ、楽しくなってきたわね」
バルナーク家での生活は充実していて、あっという間に過ぎていった。
私の前世知識プラス【植物魔法】の組み合わせは、かなり幅広い戦略を可能にした。
でも現実的な落とし所と、今後の領地での生産を視野に入れて、緻密な計画と研究が必要になる。
数日や数ヶ月ではだめなのだ。変わった作物ができて、少しだけ売り出しても意味がない。
地道に、堅実に積み重ねていく。
ベラさんたちや領民とも交流を重ねた。
リーフは遊び相手にゴンツさんやリンダさんのお子さんがいて、その子たちと遊ぶようになったわ。
数ヶ月があっという間に過ぎて、私は十八歳、リーフは八歳になった。
リーフと出会ってから、もう一年が経ったのだ。
「感慨深いわねぇ」
「んー?」
リーフをそばに寄せて一緒にベッドの端に座る。
「もう私たちが出会ってから一年経ったんだよ、リーフ」
「ん……」
私とリーフの絆はずっと深まった実感がある。
それにリーフはフィン様ともずいぶんと仲がいい。
「アーシェラお母さん」
「んー?」
こうしていられるのもいつまでかなぁ。
八歳になり、栄養状態も良好で、これからスクスクと成長していくだろう。
たぶん、日本人よりも成長が早いのではないだろうか。
でも、リーフが成長していく姿を見られるなら、それもきっと幸せよね。
「アーシェラお母さんとフィンお兄ちゃんは、こいびとにはならないの?」
「……⁉」
予想外のことを、予想外の口から聞いてしまった。
「な、何を言っているの、リーフったら」
「でも、みんな言ってるよ?」
「み、みんあって……」
私は顔に熱が上がるのを自覚する。
きっと見た目は真っ赤になっているだろう。
確かに。確かに最近、とくに意識することが多くなってきたとは思う。
フィン様は格好よくて性格がいいし、そのうえ私たちの命の恩人だ。
普段から会話することが多くて、領地のことも二人で話し合うことが増えて。
正直に言おう。私はフィン様を意識するようになっている。
それに……自惚れでなければ、フィン様も私を意識しているような……気がする。
でも、それはよく考えれば自然なことだった。
だってフィン様には婚約者がいない。
おそらく領地の問題と出会いの問題で縁がないのだろう。
つまり独り身である。
そんな彼のそばに、こんな距離感の、年齢の近い異性がいるなら。
よほどの相性の悪さがない限り、自然と互いに意識するものだろう。
しかも私にとっては暮らす場所まで与えてくれた人生の恩人でもある。
好感度なんて最初からMAXに近いのだ。
だけど、まだ決定的なことは互いに言えていないわけで。
この環境もよくない。
だって何もしなくたって一つ屋根の下で暮らしているんだもの。
そこをわざわざ冒険する必要があるのかっていうと、ね?
「僕……フィンお兄ちゃんが『お父さん』になってくれたら、嬉しいな」
「うっ……!」
リーフ、それは火力が強すぎる!
上目遣いに子供に言われると『じゃ、じゃあ子供が言うのだから仕方ないよね?』なんて気持ちになってしまう!
いや、実際。
リーフにとって、それは最良なのかもしれない。
フィン様にはずいぶんと懐いているし、憧れている様子だ。
尊敬できる大人の男性が、見たことのない自分の父親になってくれるなら、と。
きっとそう思うことだろう。
でも、そうは簡単に事が運ばないのが人間社会なわけで。
何もかも理想通りになんて、そんなことなるはずもないので。
「……そのうちに、ね。何も決まっていないから」
「うん!」
期待させるような確かなことは言えない。
フィン様の気持ちだけではなく、立場もある。
私自身の不安もあるから余計にそれ以上を言えなかった。
リーフからの追求はそこまでで済んで、ホッと胸を撫でおろすのだった。
大きな事件が起きたのは、リーフと話をしてから二週間後のことだ。
「ベラさん……!」
「ベラ!」
「うぅ、大丈夫です、アーシェラさん」
「全然大丈夫じゃないです!」
フィン様の元乳母である侍女、ベラさんが腰を痛めたのだ。
元から危なかったらしい。
私が来たことで、かなり楽ができるようになったと言っていたけれど彼女は高齢だ。
寄る年波には勝てない。
これは人間なら避けては通れない道だ。
フィン様と一緒にベラさんの療養体制と整える。
ベラさんは街に移り、医院が近く、家族がそばにいる場所で暮らすことになった。
この領地、都市部の医院には、主に領民のために仕事をしてもらっている。
領主の屋敷だけで医者を抱え込むより、領民への貢献を伯爵家が願ったのだ。
「ベラ。長い間、無理をさせてしまった。本当によく尽くしてくれた」
「いいえぇ。いつかはこうなると思っていました。思っていたよりも長くフィンお坊ちゃまのそばにいられて、私も幸せでしたよぉ」
「死ぬようなことを言うな。ただ街での暮らしに変わるだけなんだ、ベラ」
「ふふ」
フィン様とベラさんは、きっと彼が生まれてからの長い、長い付き合いだった。
「アーシェラさん、フィンお坊ちゃまのことをよろしくお願いします」
「ベラさん……。はい、必ず」
私は、フィン様の乳母だった人にそう言われて、彼女を見送ることになった。
彼女は死にそうなわけではない。
そこまで落ち込む必要はないのかもしれないが。
「……寂しい、ですね」
「そうだな……」
とうとう、バルナークの屋敷で暮らすのが私たち三人だけになってしまった。
ゴンツさんやリンダさんにも家庭がある。だから常駐はしていない。
フィン様もリーフと一緒だ。彼を一人にはできない。したくない。
「フィン様」
「ん……」
「これから、私たち三人で。一緒にがんばっていきましょう」
「……! そう、だな。一緒に」
私からは決して離れてはいかない。
大変な領地であったとしても。
彼に寂しい思いはさせない。
その気持ちはフィン様にも伝わったようだ。