【WEB版】「無価値」と捨てるのは結構ですが、私の力は「本物」だったようですよ? ~離縁された転生令嬢、実は希少魔法の使い手でした~
27 告白
屋敷での三人暮らしが始まった。
といっても、ゴンツさんやリンダさんは毎日やって来てくれるので、ずっと三人きりではない。
でも三人きり、それどころか二人きりになることが以前よりも増えた。
互いに意識し合っていることも伝わってくる。
「トマトはいい感じに育っていると思います」
「ああ」
栽培記録をつけて、成長促進も含めた資料作りに明け暮れている。
量産のための体制作り、そのための農地も領内に確保済みだ。
日あたりのいい場所にある畑をトマト栽培に譲ってもらった。
そのうちに市場に出せるまでになるだろう。
ひとまず細々と市井向けにやっていく予定。
いつか口コミで貴族の耳にも入るはずだ。
そんな研究と、三人の生活を続ける日々。
そして本格的な夏を控えた、ある日。
「アーシェラさん」
「はい、フィン様」
私はフィン様に庭の畑の前に呼び出された。
リーフはいない。
いろいろとデータを取りながら、魔法を駆使しつつ、手探りで作物を育てている。
トマトの畑にはその茎を支える支柱が設置されていた。
赤いトマト、黄色いトマト、トウガラシが畑にそれぞれ色づいている。
なんていうか、日々の手入れとの戦いだったなぁ。
農作業は地味な作業の繰り返しなのだ。
小さな〝わき芽〟とかを細かく取る作業は魔法に頼れない。
つまり手作業だ。
成長促進と組み合わせて種を先んじて得て、領地の畑での栽培用に確保して。
目指しているのは夏の間に、収穫したトマトを領民に食べてもらう〝トマト祭り〟の開催。
領地の外に売りに行っても、まだ世間に浸透していないものだ。
売れなくて腐って終わりになるのだったら、まず領民に味わってもらいたい。
「この数ヶ月間、あっという間だった気がする」
「そうですね。フィン様のおかげでいろいろと充実した日々を過ごさせていただきました」
「今ではこんな畑ができている。これが、バルナーク領を救ってくれるかもしれない」
「そうなるといいです。でも、これが無理だったとしても、すぐにあきらめる必要はありません。また、別の挑戦を始めればいい。私がいれば、いくらでも新しい挑戦ができます。……いくらでも、は少し言いすぎかもしれませんけど」
前世、別に植物学者などではなかったため、一般的に知られているような植物ぐらいしか私は知らない。
ある程度のネタを使い切ったら、そこで打ち止めだ。
植物である以上、いずれは他の領地でも増えていくものだと思う。
トマトなんて人々に受け入れられたなら広まらないわけがない。
それでも、まだまだ私にはやれることがある。
「次、か。あはは、本当に……。アーシェラさんがいてくれるから。それにリーフもだ。キミたちが来てから、この屋敷の中が明るくなったように感じている」
「フィン様……」
「ずっとなんとかしたくても日々に追われて何もできないままだった。魔獣が出たと報告が入った時、肝を冷やしたよ。この地には、俺以外に魔獣と戦える者なんていなかったから。あの討伐で俺が帰れなかったら。或いは怪我をしたら。本当にこの地はすべて終わりだと」
「……はい」
間近で見たからわかる。
アレは農民が数を揃えたところでどうにかできる存在じゃなかった。
槍や弓が狩りの道具の主流だ。
鷹狩りや攻撃魔法を用いた狩りなんて高位貴族だけの嗜み。
バルナークでそんな狩りの必要性に迫られた時、本当に絶望的だっただろう。
プレッシャーもすごかっただろうな。
なにせ、この地の生活の安全そのものが脅かされていた。
「フィン様は責任を果たされ、それだけでなく無事にこの地に戻られました。それだけではありません。あの時は、私とリーフの命を救ってくださった。本当に感謝しても、し足りません」
「……そうか。だが、アーシェラさん」
「はい、フィン様」
「……キミに恩を売る形で、無理をさせていないだろうか」
「え?」
思ってもいなかった言葉に私は驚く。
「確かに、俺はキミにとって恩人かもしれない。だが、だからこそ俺から提案したことは断れない、と。そう思ったりしないだろうか」
「ええと」
何をおっしゃるつもりなのだろう?
私はフィン様の表情をうかがう。
そうすると彼の青い瞳と、ばっちり目が合ってしまった。
そのまま互いに見つめ合い、やがて恥ずかしそうにどちらからともなく視線を外す。
あ……? まさか、この流れは。
私はあることに思い至り、胸をドキドキさせながら彼をまた見つめた。
「わ、私は。たとえフィン様が相手であっても。命の恩人が相手であっても。生活がかかっていたとしても。嫌なことであれば嫌だと、そう言いますよ?」
「……そう、かい?」
「は、はい!」
だから。無理やりに言わせる言葉なんかではない。
「アーシェラさんはもう、バルナーク領にはなくてはならない人だ。これからそのことを領民たちも理解するだろう。だから、そうなってしまっては……遅い、と思うのだ。そうなった時、俺の言葉は〝利益〟を求めるような、信じられないものになるかもしれない。それは嫌なんだ」
「……はい、フィン様」
どうしよう。鼓動が高鳴る。
私はその先に続く言葉に期待し、或いは不安に思っている。
「……キミにとっては信じ難いかもしれないが……その。寝顔が」
「寝顔?」
はて、と首をかしげる私。
「いや、気を失った顔か。初対面の時だな。キミとリーフを介抱して、野営地に運んで。それで……その、じっくりと顔を見る機会があり……。綺麗な人だな、と。服装は如何にも農民のもののはずなのに、髪が手入れされていて、華奢で……たくましさと儚さ、両方を備えているような、不思議な女性だと、そう感じた」
思いあたる日のこと。それは私と彼が出会った日。
魔獣に今まさに殺されんとしていた私を助けた彼。
でも、私はすぐに気を失ってしまった。
そのあと、私は彼に助けられた。野営地まで運ばれて。
その間、私の意識はなかった。
そんな無防備な私の姿をフィン様は観察する機会があって。
「は、恥ずかしい、です」
「す、すまない! いやらしいことはしていない! 誓ってだ! ただ、見ていただけで!」
「それは疑っていません。あの時もそんなことは頭にもありませんでした」
「そ、そうか?」
「はい」
あのシチュエーションでは流石にそんなことは頭に浮かばない。
「あー、だから、その。キミたちと別れて、バルナーク領に帰りつくまでの間。それからキミに再会するまで。しばらく、何度かキミのことを思い出すことがあり……」
「もしかしてゴンツさんがすぐに私のことを察した様子だったのって」
「……そうだな。俺から話を聞いていたからだ。再会できるなんて思っていなかったものだから」
つまり。フィン様は最初から私のことをある程度、意識してくれていた?
「……出会いが少ないですものね、バルナークでは。社交の機会もありませんし」
「そ、それはあるが! だが、そういう不純な気持ちではなく!」
「ふふ、わかっていますよ、フィン様」
「あ……そ、そうか」
私は微笑みを浮かべて。フィン様をジッと見上げた。
でも、それ以上の言葉はかけない。私だって……年頃の女性なのだ。
だから、こんな時は彼からの言葉を待ったってバチは当たらないだろう。
「あー……だから、うん」
フィン様もいろいろと言葉を、なんとかしぼり出そうとしているのがわかる。
頬を染めて、慌てながら。そんな彼の様子をかわいいとそう思った。
たくましい男性だというのに、どうしてもかわいく思えてしまうのだ。
「……アーシェラさん」
「はい、フィン様」
「俺は。フィン・バルナークは……アーシェラさんのことが、好きです」
「────」
「だから、俺と……これからも一生、そばにいてほしい。俺と結婚、してほしい、です」
あまりにも真っすぐな、貴族らしくない告白。
家としての婚約の打診なんかではない。
ただ一人の男性としての求婚。
男女交際の申し込みではなく求婚なあたりがやはり異世界、貴族たる所以か。
だけど結婚の申し込みを前にしても私が物怖じすることはない。
だって、こんなに幸福なことはないもの。
「はい。喜んで、お受けします。フィン様。私も……あなたのことが好きですから」
「本当?」
「はい。……お互いにバレていたと思いますよ、二人の気持ち」
「それは……そう、だな。自惚れでなければと何度、自問自答したか」
「ふふ、それは私も同じです。貴方に意識されていると思っては否定して、その繰り返し」
恥ずかしくも、嬉しい。困惑と、その距離感を楽しんでいた時間。
付き合ってはいなかったけれど、ほとんど互いに気持ちは向け合っていた。
「では、アーシェラさん」
「はい、フィン様」
「これからも……よろしくお願いします」
「はい。これからもよろしくお願いします」
そうして、どちらからともなく手を触れ合わせて。指を絡めるようにつなぐ。
つながっていない彼の手が私の頬に優しく触れた。
私は、ドキリとしながらも彼を見上げて。すべてを受け入れるように……。
「──アーシェラ、好きだ」
フィン様はそんな言葉と共に、私にキスをした。
唇が触れるだけの、優しい初めてのキス。それでも私は幸せだった。
「……はい、私もあなたが好きです、フィン様」
二人だけの時間が流れる。
これからも私たちは……一緒に暮らしていく。
といっても、ゴンツさんやリンダさんは毎日やって来てくれるので、ずっと三人きりではない。
でも三人きり、それどころか二人きりになることが以前よりも増えた。
互いに意識し合っていることも伝わってくる。
「トマトはいい感じに育っていると思います」
「ああ」
栽培記録をつけて、成長促進も含めた資料作りに明け暮れている。
量産のための体制作り、そのための農地も領内に確保済みだ。
日あたりのいい場所にある畑をトマト栽培に譲ってもらった。
そのうちに市場に出せるまでになるだろう。
ひとまず細々と市井向けにやっていく予定。
いつか口コミで貴族の耳にも入るはずだ。
そんな研究と、三人の生活を続ける日々。
そして本格的な夏を控えた、ある日。
「アーシェラさん」
「はい、フィン様」
私はフィン様に庭の畑の前に呼び出された。
リーフはいない。
いろいろとデータを取りながら、魔法を駆使しつつ、手探りで作物を育てている。
トマトの畑にはその茎を支える支柱が設置されていた。
赤いトマト、黄色いトマト、トウガラシが畑にそれぞれ色づいている。
なんていうか、日々の手入れとの戦いだったなぁ。
農作業は地味な作業の繰り返しなのだ。
小さな〝わき芽〟とかを細かく取る作業は魔法に頼れない。
つまり手作業だ。
成長促進と組み合わせて種を先んじて得て、領地の畑での栽培用に確保して。
目指しているのは夏の間に、収穫したトマトを領民に食べてもらう〝トマト祭り〟の開催。
領地の外に売りに行っても、まだ世間に浸透していないものだ。
売れなくて腐って終わりになるのだったら、まず領民に味わってもらいたい。
「この数ヶ月間、あっという間だった気がする」
「そうですね。フィン様のおかげでいろいろと充実した日々を過ごさせていただきました」
「今ではこんな畑ができている。これが、バルナーク領を救ってくれるかもしれない」
「そうなるといいです。でも、これが無理だったとしても、すぐにあきらめる必要はありません。また、別の挑戦を始めればいい。私がいれば、いくらでも新しい挑戦ができます。……いくらでも、は少し言いすぎかもしれませんけど」
前世、別に植物学者などではなかったため、一般的に知られているような植物ぐらいしか私は知らない。
ある程度のネタを使い切ったら、そこで打ち止めだ。
植物である以上、いずれは他の領地でも増えていくものだと思う。
トマトなんて人々に受け入れられたなら広まらないわけがない。
それでも、まだまだ私にはやれることがある。
「次、か。あはは、本当に……。アーシェラさんがいてくれるから。それにリーフもだ。キミたちが来てから、この屋敷の中が明るくなったように感じている」
「フィン様……」
「ずっとなんとかしたくても日々に追われて何もできないままだった。魔獣が出たと報告が入った時、肝を冷やしたよ。この地には、俺以外に魔獣と戦える者なんていなかったから。あの討伐で俺が帰れなかったら。或いは怪我をしたら。本当にこの地はすべて終わりだと」
「……はい」
間近で見たからわかる。
アレは農民が数を揃えたところでどうにかできる存在じゃなかった。
槍や弓が狩りの道具の主流だ。
鷹狩りや攻撃魔法を用いた狩りなんて高位貴族だけの嗜み。
バルナークでそんな狩りの必要性に迫られた時、本当に絶望的だっただろう。
プレッシャーもすごかっただろうな。
なにせ、この地の生活の安全そのものが脅かされていた。
「フィン様は責任を果たされ、それだけでなく無事にこの地に戻られました。それだけではありません。あの時は、私とリーフの命を救ってくださった。本当に感謝しても、し足りません」
「……そうか。だが、アーシェラさん」
「はい、フィン様」
「……キミに恩を売る形で、無理をさせていないだろうか」
「え?」
思ってもいなかった言葉に私は驚く。
「確かに、俺はキミにとって恩人かもしれない。だが、だからこそ俺から提案したことは断れない、と。そう思ったりしないだろうか」
「ええと」
何をおっしゃるつもりなのだろう?
私はフィン様の表情をうかがう。
そうすると彼の青い瞳と、ばっちり目が合ってしまった。
そのまま互いに見つめ合い、やがて恥ずかしそうにどちらからともなく視線を外す。
あ……? まさか、この流れは。
私はあることに思い至り、胸をドキドキさせながら彼をまた見つめた。
「わ、私は。たとえフィン様が相手であっても。命の恩人が相手であっても。生活がかかっていたとしても。嫌なことであれば嫌だと、そう言いますよ?」
「……そう、かい?」
「は、はい!」
だから。無理やりに言わせる言葉なんかではない。
「アーシェラさんはもう、バルナーク領にはなくてはならない人だ。これからそのことを領民たちも理解するだろう。だから、そうなってしまっては……遅い、と思うのだ。そうなった時、俺の言葉は〝利益〟を求めるような、信じられないものになるかもしれない。それは嫌なんだ」
「……はい、フィン様」
どうしよう。鼓動が高鳴る。
私はその先に続く言葉に期待し、或いは不安に思っている。
「……キミにとっては信じ難いかもしれないが……その。寝顔が」
「寝顔?」
はて、と首をかしげる私。
「いや、気を失った顔か。初対面の時だな。キミとリーフを介抱して、野営地に運んで。それで……その、じっくりと顔を見る機会があり……。綺麗な人だな、と。服装は如何にも農民のもののはずなのに、髪が手入れされていて、華奢で……たくましさと儚さ、両方を備えているような、不思議な女性だと、そう感じた」
思いあたる日のこと。それは私と彼が出会った日。
魔獣に今まさに殺されんとしていた私を助けた彼。
でも、私はすぐに気を失ってしまった。
そのあと、私は彼に助けられた。野営地まで運ばれて。
その間、私の意識はなかった。
そんな無防備な私の姿をフィン様は観察する機会があって。
「は、恥ずかしい、です」
「す、すまない! いやらしいことはしていない! 誓ってだ! ただ、見ていただけで!」
「それは疑っていません。あの時もそんなことは頭にもありませんでした」
「そ、そうか?」
「はい」
あのシチュエーションでは流石にそんなことは頭に浮かばない。
「あー、だから、その。キミたちと別れて、バルナーク領に帰りつくまでの間。それからキミに再会するまで。しばらく、何度かキミのことを思い出すことがあり……」
「もしかしてゴンツさんがすぐに私のことを察した様子だったのって」
「……そうだな。俺から話を聞いていたからだ。再会できるなんて思っていなかったものだから」
つまり。フィン様は最初から私のことをある程度、意識してくれていた?
「……出会いが少ないですものね、バルナークでは。社交の機会もありませんし」
「そ、それはあるが! だが、そういう不純な気持ちではなく!」
「ふふ、わかっていますよ、フィン様」
「あ……そ、そうか」
私は微笑みを浮かべて。フィン様をジッと見上げた。
でも、それ以上の言葉はかけない。私だって……年頃の女性なのだ。
だから、こんな時は彼からの言葉を待ったってバチは当たらないだろう。
「あー……だから、うん」
フィン様もいろいろと言葉を、なんとかしぼり出そうとしているのがわかる。
頬を染めて、慌てながら。そんな彼の様子をかわいいとそう思った。
たくましい男性だというのに、どうしてもかわいく思えてしまうのだ。
「……アーシェラさん」
「はい、フィン様」
「俺は。フィン・バルナークは……アーシェラさんのことが、好きです」
「────」
「だから、俺と……これからも一生、そばにいてほしい。俺と結婚、してほしい、です」
あまりにも真っすぐな、貴族らしくない告白。
家としての婚約の打診なんかではない。
ただ一人の男性としての求婚。
男女交際の申し込みではなく求婚なあたりがやはり異世界、貴族たる所以か。
だけど結婚の申し込みを前にしても私が物怖じすることはない。
だって、こんなに幸福なことはないもの。
「はい。喜んで、お受けします。フィン様。私も……あなたのことが好きですから」
「本当?」
「はい。……お互いにバレていたと思いますよ、二人の気持ち」
「それは……そう、だな。自惚れでなければと何度、自問自答したか」
「ふふ、それは私も同じです。貴方に意識されていると思っては否定して、その繰り返し」
恥ずかしくも、嬉しい。困惑と、その距離感を楽しんでいた時間。
付き合ってはいなかったけれど、ほとんど互いに気持ちは向け合っていた。
「では、アーシェラさん」
「はい、フィン様」
「これからも……よろしくお願いします」
「はい。これからもよろしくお願いします」
そうして、どちらからともなく手を触れ合わせて。指を絡めるようにつなぐ。
つながっていない彼の手が私の頬に優しく触れた。
私は、ドキリとしながらも彼を見上げて。すべてを受け入れるように……。
「──アーシェラ、好きだ」
フィン様はそんな言葉と共に、私にキスをした。
唇が触れるだけの、優しい初めてのキス。それでも私は幸せだった。
「……はい、私もあなたが好きです、フィン様」
二人だけの時間が流れる。
これからも私たちは……一緒に暮らしていく。