恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
気づけば、それなりにお酒もすすみ、
グラスを傾けながら、どこか気が抜けた空気の中。



「佐伯って、恋愛経験なさそ」


突然のそのひと言に、口に含んだお酒を吹き出しそうになった。



「……は? あるし! 付き合ってた人、ちゃんといたし!」

「マジで? ……意外」



悪びれもせずに返す黒瀬に、思わず眉をひそめる。


「意外ってなに。ひどくない?」


「いやいや、別に悪い意味じゃなくて。なんかこう、あんまり恋愛に興味なさそうに見えるっていうか」


「……興味がないわけじゃないよ…?
たしかに、あんまり自信ないけどさ……」



言いかけて、自分でハッとする。


黒瀬は、多分深い意味はなくただ軽く言ってるだけ。
なのに、どうしてこんなに引っかかるんだろう。


「……わたし、そんなに“恋愛する感じ”に見えないのかな」


「いや、それは──」


「なんか……私って、そういう対象に見られたこと、あんまりないから……」



ぽつりと出たその言葉は、自分でも驚くほど小さかった。


ほんの冗談で返せるはずだった。
いつもの黒瀬くんなら、軽く受け流せば済むはずの会話。

 
なのに、胸の奥に溜めこんでいた何かが、不意にあふれてくる。


(やだ……こんなの、黒瀬くんの軽口なんて、いつものことじゃん……)


わかってるのに。
涙が、勝手ににじんでくる。


視界がぼやけて、グラスの向こうがにじんだ。
< 10 / 44 >

この作品をシェア

pagetop