【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜

ダメなのに求めてしまう日常。

昼休み。


社内のカフェスペースで、ランチを終えたあと。


コーヒーを飲んでいた私の隣に、後輩の美紅ちゃんがふいに座ってきた。


「有紀さん、なんか最近……雰囲気、変わりましたよね?」


「……え?」



突然のひと言に、思わずカップを持った手が止まる。



「前より……綺麗になったっていうか、大人っぽいっていうか。
あ、大人の色気……みたいな?」


「色気……?」



思わず聞き返すと、美紅ちゃんは顔を赤くして、あたふたと手を合わせる。



「いや、変な意味じゃないです!ただ、前は“可愛い”って感じだったけど……
最近ちょっと、ドキッとする瞬間があるんですよ。目の奥とか、ふとした表情とか、仕草とか」


「……そんなことないと思うけど」



笑って返したけど、胸の奥が静かにざわついていた。



(……変わったなんて、自分では思ってなかったのに)



「もしかして……彼氏、できました?」



少し声をひそめて、探るように聞いてくる美紅ちゃん。


「……できてないよ」


笑ってごまかしたけど──



心に浮かぶのは、夜のベッドで、黒瀬くんの腕の中にいた自分。


熱くて、優しくて、どこか切なかったまなざし。


重なった肌の熱も、静かに落とされたキスも。


全部、まだ胸の奥に残ってる。







———あれから、私と黒瀬くんは、何度も身体を重ねてる。



でも……恋人同士の関係じゃない。




──たぶん、私たちは「セフレ」なんだと思う。



言葉にするのも怖い。


認めたくなんて、ないのに。


それでも、身体を重ねるたび、少しずつ逃げられなくなっていく。



“好き”って伝えたい。



ちゃんと、想いを伝えたいのに。



その一言で、何かが壊れてしまいそうで──どうしても言えなかった。



(黒瀬くんの気持ちが、見えないままだから……)



わかってる。



ズルいのは、私のほうだって。



本当の気持ちも伝えずに、逃げるみたいに、彼の腕の中にいる。



苦しくて、切なくて……それでも、手放せなくて。



「……有紀さん?」


「えっ」


はっと顔を上げると、美紅ちゃんが心配そうにこちらを覗き込んでいた。




「……大丈夫ですか?
有紀さん、たまに……ちょっと寂しそうな顔してる気がして」


「……そんなことないけど…心配してくれてありがと」


静かに笑って、ぬるくなったコーヒーに目を落とす。



(変わったのは、きっと、表情だけじゃない)



ただの身体だけの関係だなんて思いたくないのに。



それでも気づいてしまってる──



あの夜から始まったこの関係が、
ただの“セフレ”になってしまってるかもしれないってことに。






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