【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
会議が終わったのは、ちょうど昼休みの直前だった。



廊下に軽やかな声が響く。



「黒瀬さん!このあとってもうお昼行きますか?」



誰の声かは、聞かなくてもすぐにわかった。 


川上千紘だ。



さっきの会議中も、黒瀬のすぐ隣の席から、たびたび話しかけていた彼女。
議題とは関係ない軽い話をふいに挟んでは、柔らかく笑う。

 

誰が見ても、自然で可愛らしい好意がそこにあった。


「んー……多分、予定が詰まってるから、適当に済ますかも」

「え〜、空いてたら行きましょうよ。プロジェクトの話、もっと詳しく聞きたいです」


川上は明るく笑い、嬉しそうに黒瀬を見上げる。

その仕草には、隠しきれない感情がにじんでいた。


(……川上さん、黒瀬くんのこと、好きなんだな……)



有紀の胸に、ひやりと冷たいものが差し込んだ。



ふたりは楽しそうに話しながら、そのままエレベーターの方へ歩いていく。
 


もちろん、黒瀬くんは私の方を一度も見ない。





“リーダーとして、公私はきっちり分ける”──



それは確かに、彼らしいやり方だ。




でも、それがどこか冷たく感じてしまうのは、


きっと私が、まだ割り切れていないからだ。



(川上さんが黒瀬くんに好意を持つのは、別に悪いことじゃない……)
 


そう自分に言い聞かせても、



胸の奥に残るざらついた感情は、消えることなく残った。
 




「──佐伯さん」



不意に後ろから呼ばれて振り返ると、



斉藤が申し訳なさそうにメモを持って立っていた。



「すみません、この仕様のことで確認してもいいですか?」

「あ、もちろん。どれどれ?」



そうだ、仕事に集中しよう。



そう思って視線を伏せた瞬間、



また遠くから、川上と黒瀬の楽しげな笑い声が聞こえてきた。



有紀は自分の指先に力が入っていることに気づき、


そっと手を握りしめた。



知りたくなかった。



“恋人じゃない”──そんな関係で、



心がこんなにも揺れてしまうなんて。



どうしようもなく、苦しかった。



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