【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
シャワーの音が止み、しばらくして黒瀬が出てくる。


着ているのは、有紀の家に置いてある黒のゆるめのTシャツと、グレーのスウェットパンツ。


「夕飯、食った?」


ソファに腰を下ろしながら、黒瀬が低い声で聞く。


「うん。食べた」

「そ」

「黒瀬くんは?」

「食ってきた。」



その短いやりとりのあと、有紀は立ち上がり、洗面所からドライヤーを持って戻ってくる。


「……ほら、こっち来て」

「……ん」


言われるまま、黒瀬はローテーブルの前に座る。


有紀はその背後に腰を下ろすと、濡れた髪をそっと指で梳きながら、ドライヤーをあてていく。


「……いつも思うけど、髪乾かさずに出てくるのやめてよね」

「別にいいだろ。どうせ有紀がやってくれるし」

「……もう、あてにしすぎ」


文句を言いながらも、手はちゃんと丁寧に動いている。


風をあてながら、手ぐしで根元から優しく乾かしていく。


この“作業”も、もう自然な日課になっていた。


「……気持ちいい」

「……もう…」



けれど、どこかうれしくなるこの空気。


乾かし終えたタイミングで、黒瀬がふいに振り返る。


「……きて」


言葉とともに手を差し出され、有紀は自然に引かれるまま、ソファに座った彼の太ももの上に向かい合わせで跨る。


「え……」


この体勢に、戸惑いかけたその瞬間、腰に腕が回って、するりと距離を詰められる。


「……顔、ちゃんと見たかった」


その一言とともに、黒瀬の手が髪をそっと撫でる。


そして──後頭部を引き寄せられ、唇が重なった。


「……ん、……」


何度も、熱を含んだ口づけが落ちる。
呼吸が重なって、心臓がどんどん速くなる。


「……会いたかった」


有紀の肩に額を当て、低く甘い声でぽつりと零れた言葉が、有紀の胸に深く落ちた。


(そんなの……ずるい)



拒めない。
この声も、腕も、体温も──







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