【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
呆れた感情と拒めない熱
仕事から帰宅して、簡単に夕飯を済ませると、有紀はゆっくりとシャワーを浴びた。
流れるお湯に目を閉じながら、今日のことを振り返る。
川上さんの無邪気なアプローチ。
高峰くんの優しさ。
そして、何より脳裏に残る川上さんと笑い合う黒瀬くんの低い声。
(……疲れた)
有紀が髪を乾かし終えた頃、テーブルに置いたスマホがふるりと震えた。
画面には、黒瀬からのメッセージ。
《今日、有紀の家行っていい?》
たった一文。
それなのに、心臓が跳ねる。
(……バカみたい)
何度も身体を重ねて、関係なんてとっくに曖昧なままなのに、
たった一言に、いちいちドキッとしてしまう。
川上さんと笑い合ってたのを見て、
嫉妬と焦りでどうしようもなかったのに。
それでも。
(……嬉しいって思ってる)
そんな自分に、呆れる。
《いいよ》
短くそう返して、ため息と一緒にスマホを置いた。
(ほんと、ズルいよね……お互い)
ソファに座り直し、何気なくテレビをつけていたら、
数十分後、インターホンが鳴った。
「開いてるよ」
オートロックを解除しながら伝える。
玄関の鍵はすでに開けてあった。
少しして、黒瀬が「おじゃま」とだけ言ってリビングに入ってくる。
「……ただいま」
「おかえり」
他愛もないやりとり。
でも、この黒瀬が来る時間は、有紀にとって特別だった。
「シャワー、借りる」
「うん。タオル、いつものとこにあるよ」
黒瀬は慣れた動きでバスルームへと向かう。
——この家に、黒瀬の私物が増えてきたのはいつからだっただろう。
洗面所の棚に、彼の歯ブラシ。
クローゼットの隅には、数着の部屋着。
特別な言葉は交わしていない。
それでも、こうして自然に“そこにいる”ようになっていった。