【完結】恋はあの人に、堕ちたのは君に。〜今日も意地悪な同期の腕の中で〜
誰もいない非常階段の踊り場。



鉄扉が閉まり、外の喧騒が一気に遠のく。



その瞬間、有紀の中で張り詰めていた何かが、ぷつりと切れた。

 

「……ごめ、なさいっ……やだ、こんな……っ……」

 

ポロポロとこぼれていく涙。


それを止めることもできずに、ただ肩が震え続けた。

 

「……泣いていいよ」

 

優しい声とともに、腕がそっとまわされた。

 

「誰にも見られてない。俺しかいないから、大丈夫」

 

その言葉に、また涙が溢れた。


わけもなく泣きたくなる日がある。


苦しくて、息が詰まるような日が。



それでも、誰にも頼れない時、こんなふうに誰かがそばにいてくれるだけで、心が救われる。

 

高峰の腕の中で、有紀はしばらくのあいだ、ただ静かに涙を流し続けた。

 
抱きしめる力は、どこまでもやさしかった。


何も聞かず、


何も求めず、



ただ寄り添うだけの温もりに、



有紀の心は少しずつほどけていく気がした。


< 123 / 172 >

この作品をシェア

pagetop